防衛強化が隣国との戦争を生む

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 紀元前6世紀頃。現在のイラン北西部一帯を支配していたメディア王国は、西方で急激に力を付けてきたアッシリアからの攻撃に備え、首都エクバタナの防備を固め始めた。大勢の労働者を動員して、強大な切石で築かれた高さ30メートル以上、厚さが20メートル以上ある城壁で町をぐるりと取り囲む。城壁の一角には堅固な城門を作ったが、その幅は18メートルもあり、王の軍勢が隊列を組んだまま出入りできたという。城門脇には高い塔を建てて、遠方からの敵の接近にも警戒を怠らない。

 巨大な城壁を短期間で作り上げるだけの財力が、当時のメディアにはあったのだ。国は富み、国民は平和を享受していた。もちろんメディアには巨大な城壁だけでなく、それに匹敵する軍隊もあっただろう。国の指導者にとって、防衛の強化は国民の生命と財産を守るために必要不可欠なものだ。こうした軍備を誇示することが、近隣国に対する抑止力にもなる。だがあまりにも急激な防備強化は、隣国に対する軍事的な脅威であり、挑発行為にもあたるのだ。

 アッシリア王はメディアに戦う意志ありと見て即座に軍を出したが、メディアに利あると見た周辺国の協力が得られず、いったん兵を引き上げざるを得なかった。メディアによる抑止力が、この時は功を奏したわけだ。だがアッシリアにとって、巨大な軍を備えるメディアはやはり脅威だ。アッシリア王は5年の歳月をかけて軍を整え直すと、メディアの首都エクバタナを責め立ててこれを陥落させた。都はアッシリア軍に蹂躙され、民家もことごとく略奪された。メディア王は都を脱出して山地に逃げたが、そこで捕らえられて投げ槍で殺されたという。

 以上は、旧約聖書続編「ユディト記」のプロローグ。このあとアッシリアはかつてメディアとの戦いに協力しなかった国々を完全な支配下に置くため、将軍ホロフェルネスを西方に派遣。しかしイスラエルがこれに強固に抵抗し、最後は女傑ユディトの機転と勇気によってアッシリア軍を撃退する。

 「ユディト記」自体は史実をまったく反映していない物語だと言われているのだが、今回これを紹介したのは「防衛力の強化がじつは国を危険に追いやることがある」というひとつの事例としてだ。安倍総理は周辺国(中国や北朝鮮)の脅威に対抗するため、日本の防衛力を強化しなければならないと主張する。アメリカとの同盟関係をより強固なものにするため、集団的自衛権も行使できなければならないという。でもこうした防衛強化が、対立する相手国に対する軍事的な挑発行為と見なされる場合があるということは肝に銘じておいた方がいいと思う。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

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