タロットの秘密

 周易について金谷治の「易の話 『易経』と中国人の思考」が担っているような役割を、 タロットの分野で今後担って行くであろう好著。じつは「易の話」ももともと講談社現代新書で出た本が、後に講談社学術文庫に入っている。「タロットの秘密」もゆくゆくは学術文庫に入り、古典的な入門書として時代を経て読み継がれていくような気がする。

 タロット占いにも使える本だが、タロット占いの入門書ではない。これはタロットという不思議なカードセットが、いついかなる場所から出現し、どのような道をたどって占いの代表的なツールに用いられるようになったかを紹介した本だ。

 今では西洋発祥の占いとして、占星術と並んで「占いの王道」のようになっているタロットだが、その歴史は意外なほどに新しい。世の中にあまたある「占術」の中でも、その起源と発達がきちんと記録されている数少ない例がタロットなのかもしれない。(それに比べると易占はどれだけ歴史があるんだか…….。)

 タロットはルネサンス期に、貴族たちがゲームに使う遊技カードとして作られた。数札(いわゆる小アルカナの部分)を使ったゲームがまずあり、ゲームを複雑にするため特別な絵札(大アルカナ)が作られたらしい。絵札の内容がなぜ今のような物に決まったのか、絵柄と数字の組み合わせの理由などは、もはやわからなくなっていることもある。しかしこの時点で、カードに神秘性はまだほとんどなかった。

 カードが神秘性を帯び始めるのは18世紀後半。この頃からタロットが占いに用いられるようになる。単純で素朴な占術ツールだったタロットは、19世紀に入るとオカルトや神秘思想の影響を受けてさまざまに解釈されるようになる。20世紀になるとタロット占いは「知る人ぞ知る神秘的なカード占い」として広まっていく。この頃に分析心理学の創始者ユングも、タロットに注目している。

 一般的にカード占いは1950年代まではトランプを使ったものが主流だったが、これが1970年代にはタロットにお株を奪われる。一般向けのタロット占い入門書なども数多く出版され、日本でもこの頃に、欧米でのタロットブームを受ける形でタロットが知られるようになっていく。

 この本はタロットにまつわる神秘的な意味付けなどを紹介しながら、そうした「タロットの神話」をことごとく破壊してしまう。タロットは古代エジプト由来の神秘的カードではないし、タロット占いにことさら神がかりな何かがあるわけでもない。

 ではタロット占いには意味がないのか? そうではないと著者は言う。タロット占いには、自分自身の心を見つめる自己セラピー的な価値がある。タロットが示すメッセージが、凝り固まっている自分の心を解きほぐし、心の奥深いところにある自分の本当の願いや抑圧を浮かび上がらせることがあるのだ。

 僕はこうした著者の姿勢にまったく同意する。僕自身は趣味で「易占」をしているのだが、易を立てる理由はやはり「自分自身の今を見つめ直す」ために他ならないからだ。易もタロットも占いとしては「卜占」に属するのだが、こうした占いは占問者に対する公平かつ客観的な第三者として、「お前は本当はこう考えているんじゃないか?」「あなたの本当の願いはこうなんじゃないの?」と問いかけてくる。

 卜占が公平客観的なのは当たり前だ。カードやサイコロがどんな結果を示すかは、その時々の巡り合わせ、まったくの偶然に過ぎない。タロットやサイコロ(あるいは筮竹でもよい)は、占問者を「問題へのとらわれ」から解き放つ。示される答えのほとんどは問いに対する明確な回答になっていないが、だからこそ専門者は「これはどんな意味があるのか?」「どんな関わりが秘められているのか?」と、示された答えと自分の占問の間に何らかの物語を作り出そうとする。この「自分のための物語を作る」という行為が、人の心を自由にしてくれる。

 タロットに興味を持つ人は、一度読んでおくべき良書だと思う。占いの専門書は結構高価な物もおおいのだが、これは何よりまず安価だ。専門的な話題もあれば、初心者向けの占いガイドにもなっている。これ1冊で、結構いろいろな事ができるのだ。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書

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