人口減少社会のリアリズム

東京新聞

 東京新聞に掲載された上野千鶴子のコメントが話題になっている。その多くはコメントに対する反発だ。

 コメントの内容を簡単に要約すると、以下のような内容と流れになっている。(段落ごとに要約してみる。)

  1. 日本は人口は今後急速に減少し、出生率向上による人口維持は不可能。
  2. それでも人口を維持したいなら、海外から移民を受け入れて不足分を補うしかない。
  3. 日本は移民を入れて社会の活力を維持するか、人口減少で衰退して行くかの分岐点に立っている。
  4. しかし移民受け入れはまず無理だろう。
  5. 世界的な排外主義の流れがある。
  6. 単一民族神話の日本は多文化共生に耐えられない。
  7. 移民受け入れが無理なら人口減少と衰退は不可避なので、やるべきことは社会的なダメージの少ない軟着陸の方法を模索することだ。社会民主主義的な方法で、平等に、緩やかに貧しくなっていけばいい。
  8. 日本の希望はNPOなどで働く人材にある。
  9. 日本市民社会は成熟し、立憲主義への理解は深まっている。

 このうち8と9は本論とは別の話で、このコメントの中心は1〜7の部分にある。

 僕自身の感想を言わせてもらうなら、僕は上野千鶴子とほとんど同意見だ。特に1〜6の部分については、ほとんどまったく異論がない。

 3の部分には次のような記述があり、ここに外国人差別、移民排斥の意図を感じる人もいるようだ。

移民を入れて活力ある社会をつくる一方、社会的不公正と抑圧と治安悪化に苦しむ国にするのか、難民を含めて外国人に門戸を閉ざし、このままゆっくり衰退していくのか。

 移民が来ると「治安悪化に苦しむ」という部分で、「移民を犯罪者扱いしている」と考える人がいるのだろう。上野千鶴子本人がどんな意図でこう述べているのかはわからないが、僕は日本国内に移民が増えれば、治安は間違いなく悪化すると思っている。

 それは「日本でもヘイトクライムが行われるようになる」という方向での治安悪化だ。

 じつは上野千鶴子がここで述べている移民受け入れのマイナス面は、社会的不公正にしろ抑圧にしろ、日本にやって来た移民が被る被害(移民に対する不公正な扱いや抑圧)について述べている。ならば治安悪化も、同じように移民が被害者になるという解釈をしたっていいはずなのだ。

 日本はこれまで「異文化に寛容な国民」という自己認識を持ってきた。古代から現代に至るまで、日本人は海外の文化や風俗を巧みに自分たちの暮らしに取り入れ、日本文化の一部としてきた。それが日本人の誇りであり、日本人らしさだと考えてきたのだ。

 しかし移民が大量に流入すれば、日本のそうした「美徳」が虚構であったことが、あっという間にあらわになってしまうだろう。

 コメントの中で議論を呼ぶのは、7の部分だ。以下にこの段落をすべて引用する。

 だとしたら、日本は人口減少と衰退を引き受けるべきです。平和に衰退していく社会のモデルになればいい。一億人維持とか、国内総生産(GDP)六百兆円とかの妄想は捨てて、現実に向き合う。ただ、上り坂より下り坂は難しい。どう犠牲者を出さずに軟着陸するか。日本の場合、みんな平等に、緩やかに貧しくなっていけばいい。国民負担率を増やし、再分配機能を強化する。つまり社会民主主義的な方向です。ところが、日本には本当の社会民主政党がない。

 上野千鶴子のコメントについて、「平等に貧しくなるなんて幻想だ」という批判の声は大きい。僕もそう思う。だが本人はそれを十分承知していて、『上り坂より下り坂は難しい』と断っているのだ。

 このコメントは「日本の未来はこうなる」という予言や予想ではなく、「こうしないと日本は生き残れない」という提言だ。現在の社会構造を維持したままでは、日本は遠からず社会全体が破綻する。急速に人口が減少し、急速に経済が縮小し、政府の財政が破綻してしまうからだ。その破綻を避けるには、あるいは破綻を少しでも先延ばしにするには、乏しいリソースを国民全体で分かち合って生き延びるしかない。

 「人口が減少してもロボット技術があれば大丈夫」などと言う人もいるが、その技術は何年後に実用化するのだろうか? 50年後にロボットが実用化されたとしても、20年後に日本が経済破綻してしまえば意味がないのだ。破綻をなるべく先延ばしにすれば、ロボット技術がそこに追いつくかもしれない。そういう意味でも、衰退をまず前提としながら、未来に希望をつなぐ方法を模索すべきだろう。

 「平等に貧しくと言う前に、お前がまず財産を寄付して貧しくなってみせろ」と言う批判も見かけるが、これはまったく筋違いのものだと思う。上野千鶴子が言う社会民主主義的な仕組みが整っていないままに私有財産を放棄すれば、その人はあっという間に干上がって困窮してしまうではないか。

 日本の人口は間違いなく減るし、日本は今後間違いなく貧しくなる。女性の社会進出が進み、労働生産性が多少向上しようと、今後数十年のうちに人口が3分の2に減るという社会的なインパクトの前では焼け石に水なのだ。

 必要なのは「何をやろうと日本は今後どんどん貧しくなる」という国民的な合意だ。この事実をまず受け入れた上で、政治家も、役所も、国民も、やるべきことを淡々とやるしかない。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中