ネット時代の「民意」の危うさ

渋谷

 韓国の民主主義が衆愚政治に堕落しており、それは他人ごとではないという話を昨日書いた

 昨年はイギリスが国民投票でEUからの離脱を決め、アメリカではドナルド・トランプが大統領選挙に勝利した。韓国と日本の間で起きているドタバタも、こうした世界の潮流とは無関係でないように思う。

 日本も含めてのことだが、最近の世論はネットが作っているようなところがある。新聞の購読者は激減し、かつて世論形成に一定の役割を果たしていた新聞マスコミの地位は地に落ちている。新聞の読者は減る一方で、雑誌も売れない。本も売れない。テレビも見ない人が増えている。

 人々はどこに行ったのか? どこで情報を得ているのか? それは間違いなくネットなのだ。ネットは新聞やテレビでは取り上げられないニュースを取り上げることも多く、最近はテレビや新聞がネットの後追いで記事を作ることもある。

 だがネットの生み出す「世論」はかなり怪しげな存在だ。ネット利用者は新聞やテレビの報道を「偏っている」と批判することが多いが、ネットで流通している情報の方がよほど偏っている。しかしネット利用者にそうした認識がどれだけあるだろうか。

 現在のインターネットメディアは広告収入モデルに依存していることがほとんどなので、注目を集めて閲覧数を上げるために、タイトルや記事の内容が扇情的なものになりがちだ。正論、常識的な意見、妥当な判断では、記事が目立たない。インターネットの中で少しでも記事を他と差別化するには、暴論、常識はずれの意見、極端な判断の方が読者の注目を浴びる。その結果、そうした記事ばかりが量産されていくのだ。

 新聞社が配信する普通のニュースも、ニュースサイトはSEO対策で扇情的なタイトルに付け替える。そして記事はSNSで拡散され、ほとんどのネット利用者は記事本文を読まずにタイトルだけ見て「いいね」したりリツイートしたりする。

 トランプ次期大統領は記者会見でCNNを「フェイクニュース」と罵倒したが、昨年のアメリカ大統領選挙では広告収入目当てのインチキ記事がずいぶん出回って、トランプ大統領の勝利に貢献したらしい。広告収益が目的なら、まともに取材して公正な記事を書くより、最初から読者が望むデタラメな記事を書いた方がアクセス数が稼げるからだ。

 ネットでニュースを読む人は、ニュースサイトで自分の興味がある記事だけを拾い読みする。するとサイトが利用者の好みを学習して、その利用者の好む記事を次々に配信するようになる。これもまた、サイトが広告収益を目的にして行っていることだ。利用者の嗜好に合わせて記事を配信すれば、それだけ利用者に記事を読んでもらえる機会が増える。記事が読まれれば、それに応じて広告閲覧数も増える。

 こうしてネット利用者は知らず知らずのうちに、ニュースサイトの中の自分の読みたい記事ばかりを読むようになる。記事を選択的に読んでいるという自覚はない。最初からそれしか配信されてこないのだから、自分は多くの記事に目を通して、世の中を公平にバランスよく見ているつもりになっている。でも実際は、そのニュースは最初から偏っているのだ。

 ネットが悪くて、新聞やテレビが良いと言うわけではない。かつて新聞は、読者獲得のために世論に迎合した戦争礼賛記事を書きまくったことがある。日本では新聞が「勝った勝った!」と大騒ぎするから国民がすっかりその気になって、日本が無謀な戦争に突っ走ることを止められなかった。テレビは21世紀になってからも、イラク戦争を煽ってアメリカを中東の泥沼に引き込んだ。

 新聞やテレビなどのマスコミには権力のチェック機能が求められているはずなのだが、それらのメディアもまた広告で収益を上げる営利事業なのだ。より多くの読者を獲得するため、読者や視聴者が読みたい記事や見たいニュースを配信する。

 インターネットの創成期には、ネットの情報がこうしたマスコミの弊害を是正することが期待されていた。当時のネットはビジネスモデルが確立されておらず、広告に依存しない自由な言論空間が新たに生まれると思われたからだ。だが結果はご覧の通り。ネットもすっかり広告依存のメディアになり、既存のマスコミ以上に扇情的で偏った記事を量産するようになっている。

 どんな主義主張でも売り買いの対象になり、より多く売れる意見が「よし」とされる資本主義。大衆受けする極端な主義主張が世論を形成し、政治を動かしていく民主主義。その結果生み出されているのが今の世の中だ。この傾向はこの100年ぐらい変わらないが、インターネットの発達で情報の伝播速度が飛躍的に速くなっているのは間違いないと思う。

 たぶんこの動きは、行きつくところまで行くだろう。しかしその行きついた先に何があるのかは、誰にもわからない。いずれにせよ、それはろくでもないことに違いないのだけれど……。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

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