「怒り」を制御する難しさ

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 人間の感情の中で「怒り」ほど制御しがたい物はない。

 仏教では人間の持つ根本的な3つの煩悩として貪(とん)・瞋(じん)・痴(ち)の三毒をあげているが、これは欲望・怒り・愚かさのことだという。

 怒りが制御しがたいのは、それが「自分は正しい」あるいは「自分は悪くない」という自己正当化から生まれる感情だからだと思う。怒りは外部の刺激から自我を守ろうとする、本能的な防衛反応なのだ。

 人間は外部からの刺激が、自分に取って心地よい物か不快な物かを瞬時に判断する。外部の刺激は、文字通りの「外部」ではなく、自分の心の中に生じることもある。過去に起きた不快な出来事、自分自身の失敗の記憶、将来に対する不安など、心の中でそれを思い浮かべただけで不快な気持ちになることは多い。

 そうした不快な刺激を、人間の自我は排除しようとする。不快なことがあっても、「自分は正しい」や「自分は悪くない」と考えて、自我が傷つけられるのを拒む。自分が正しいのに、自分は悪くないのに不快なことが起きるのはなぜか? それは自分以外の誰かが悪いのだ!

 こうして怒りの気持ちがフツフツと沸いてくるわけだが、自我の防衛反応が過敏な人はここで爆発的な怒りが吹き上きでることになる。普通は「なんだかムカつくなぁ(不快感)。俺が何したってんだよ(自己正当化)。アッタマにきた!(怒り)」というブロセスを踏むものが、「ムカツクからブッ飛ばすぞ!!」と外部への攻撃性に直結したりする。

 怒りを制御するためには、「カッとなったら心の中で6まで数えろ」などと言われることもある。これは「怒りのピークは3秒ぐらいなので6秒もたてば怒りは薄れる」などと説明される。要するに怒りのピークから時間を置けというアドバイスだ。

 しかしこれは、まったく間違っているような気がする。怒りというのは、自己正当化が生み出す衝動なのだ。6秒待った結果、心の中で自分自身の感情への正当化が強化されて、怒りがより大きく膨れ上がることもあるはずなのだ。

 怒りの厄介さはここにある。怒りというのは「自分は正しい」という気持ちが、「お前が悪い!」という外部への攻撃性に転換した物だ。怒りは自らの怒りを「自分は正しい」という気持ちによって正当化する。自分は正しくて相手が悪いのだから、怒りの感情は正当なものであり、少々大げさな言い方をするならこれは正義なのだ。

 こうして正義の戦いを始めた怒りの感情は、過去の記憶や思いつく限りの理屈を総動員して自らの怒りを正当化する。自分は悪くないという理由を土塁のように何重にも積み上げた上で、悪い相手を攻撃し打ち負かすための武器や道具を揃えはじめる。こうしたプロセスは、人間が意識するまでもなく、ほんの数秒で完了するだろう。

 もちろん取るに足らない怒りもある。6秒待てば何事もなくやり過ごせる怒りもあるだろう。でも6秒待っている間に相手がくどくどと言い訳をはじめたり、自分の間違いを棚に上げてこちらを攻撃してきたらどうだろう。6秒待っても怒りは膨れ上がるばかりだと思う。

 たぶん「6まで数えろ」というのは「時間を置く」ことに意味があるのではなく、心の中でしっかりと、できればゆっくり、ストップウォッチの秒針か何かを具体的にイメージしながら、「1、2、3、4、5、6」と数え上げることに意味があるのだと思う。

 これは瞑想と同じなのだ。心の中で数を数えることで、考えることを一時ストップさせてしまう。怒りの感情が高まると、人間は自動的に自分の正しさと相手を非難すべき理屈を考えだしてしまうのだが、数字を数え上げている間はその考えが止まるからだ。

 ……とまあそんなことを、瞑想に関する本を読んだり、自分で多少瞑想の真似事みたいなことをやりながら考えている。自分自身のその時々の感情に気づき、それが自分に取って好ましくない物であれば、好ましい方向に傾ける努力をしてみるというのは悪いことではない。

 しかし何よりも大切なのは、怒りを感じているときに、その怒りの感情に自分で気づくことなのだ。でもじつは、それが一番難しいのかもしれない。

 辻メソッドの34のライフスキルの中にも、「感情・気分・気持ちに気づく」という項目がある。自分のその時々の気持ちに気づくことさえできれば、感情や気分のコントロールは6割ぐらい達成できているのではないだろうか。でもそれが難しい。

 人間は自分の不快な気持ちには比較的すぐ気づいても、心地よい気持ちの時はそれに酔ってしまう。怒りというのは「自己正当化」だから、それに酔ってしまうことがあるのだ。怒りの感情は「正義によって悪を懲らしめている俺様」という自画像を作り上げてしまうからだ。

 というわけで、『人間の感情の中で「怒り」ほど制御しがたい物はない』という振り出しに戻る。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

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