配偶者控除150万円への拡大はまやかし

130 Limit

 自民党と公明党の与党税制協議会は今月2日の会議で、2018年から配偶者控除の対象を年収103万円以下から150万円以下に拡大することを決めたという。

 ただしこれでは税収が不足するので、世帯の主たる稼ぎ手の年収が1,120万円を越えたところから3段階で控除額を削減し、1,220万円を越えたところで完全に控除対象から外すことにするらしい。

 新聞各紙はこれを受けて、女性が働きやすくなったと報じているのだが、そう簡単なものでもないだろう。

■企業の扶養手当

 これについてマスコミでしばしば取り上げられているのが、企業が従業員に支払っている扶養手当の存在だ。最近は減ってきているようだが、それでも結婚して家族がいる従業員に対して何らかの手当てを支給している企業は多いらしい。そしてその支給基準が、配偶者控除と同じ年収103万円なのだ。

 これを150万円まで引き上げると、企業は手当てを支払う対象者が増えて負担が増してしまう。だからこの機会に手当てそのものを廃止したり、支給の条件を手直しする企業も出てくるだろう。しかし一番簡単なのは、税法上の基準はどうであれ、社内規定としての扶養手当ての支給基準はそのままとすることだ。

 これだと被扶養者が年間103万円を越えて働くと、会社からの扶養手当が支給されなくなってしまう。家族構成にもよるが、会社によっては世帯あたり毎月数万円の手当てを支給しているというから、それだけで年間数十万円の家計収入が減ることになる。扶養手当をもらっている家庭で、被扶養者が103万円を越えて働くようになるかどうかは、扶養手当の制度がどう変わるかにかかっているのかもしれない。

 しかしこれは、民間企業が個々の裁量でやっている問題だ。扶養手当が存在しない会社も多い。それより問題になるのは、150万円よりずっと手前に待ち構えている130万円の壁だろう。

■130万円の壁

 サラリーマン家庭で被扶養者になっている配偶者は、主たる稼ぎ手が加入している厚生年金と健康保険に家族として加入することが出来る。被扶養者は自分で保険料を一銭も支払うことなく、基礎年金と健康保険に加入することができるのだ。会社に勤めている被保険者の保険料も、扶養家族がいるからといって高くなるわけではない。つまりロハで年金と保険に加入できるのだ。

 しかし年収が130万円を越えると、扶養から外れて国民年金や国民健康保険に自分で加入する義務が生じる。その保険料は年金だけで年間約20万円。国民健康保険料は自治体によって異なるが、ざっと10万円ぐらいだろうか。つまり合計30万円ほどが社会保険料の支払いに消えてしまうのだ。

 これだと150万円稼いでも、手もとには120万円しか残らない。働けば働くだけ収入が増えるようになるのは、130万円に社会保障費の自己負担分を加えた年収160万円を越えて以降だ。それまでは働いた分がそっくり社会保障費の支払いに消える。

 130万円以下の収入を、一足飛びに160万円以上に増やすのは結構大変だ。最低賃金の全国加重平均額は823円。160万円稼ぐには、月22日勤務で毎日7時間半のフルタイム勤務にしろという話になる。もちろん地域によっては賃金がこれより低いわけだから、その場合はフルタイム勤務をしても160万円には届かない。

 しかしサラリーマン家族の非扶養者になっていれば、自分で保険料を支払わなくても受けられるサービスはまったく同じ。ならば年収が130万円に届きそうになった時点で働くのを控え、扶養の範囲内で働こうとする人は多いはずだ。

■106万円の壁は限定的

 今年は厚生年金の加入基準が見直されて、新たに106万円の壁が出来たとも言われている。しかしこれは条件が厳しいので、これを壁として意識する人はあまりいないのではないだろうか。何しろ対象になるのは、従業員数が501人を越える大企業だけ。それに対して給与所得者の6割はその対象外となる中小企業に勤めているのだから。(ただし派遣社員は契約の主体である派遣元が、結構大会社になっている可能性があるかも。)

 それに厚生年金はサラリーマンの配偶者が加入する基礎年金より将来もらえる年金額が増えるので、もしも106万円越えで社会保障費の支払いを求められるようなら、これはむしろ払ってしまった方がいいように思う。

■制度改正の目的は何か

 今回配偶者控除の範囲が拡大されたことで、一体何が起きるのか? 現時点ではまだいくつもの分厚い壁が残っているので、これまで103万円の範囲で働いていた人たちがいきなり150万円まで働くようになることはあり得ない。もちろんそんなことは、与党税調だって百も承知なのだ。

 今回の制度改正の目的は、配偶者控除の対象となる家庭に所得の制限を付けることにある。これまで主たる稼ぎ手の収入が幾らであっても扶養控除で免除されていた税金を、制度改正によって徴集することができるようになるのだ。この効果は大きい。

 要するに「増税」でしかないのだが、マスコミはこのことにほとんど触れない。増税になるのは主たる稼ぎ手の年収が1,120万円を越える家庭だけで、これは日本人の平均給与から見るとそれほど多くないからだ。新聞やテレビなど大手マスコミの社員は多くが増税になるはずだが、それに対して「増税けしからん!」と言えないのは読者や視聴者の嫉妬が恐いからだろう。

■将来的に制度はどうなるか

 一番の問題は、サラリーマンの配偶者(妻)が優遇されすぎていることにある。サラリーマン家庭でも子供は成人すればたとえ無収入でも年金保険料を支払い義務が生じるのに、サラリーマンの妻は100万円以上の収入があっても保険料を一銭も支払わなくて済むのだ。

 結婚している夫婦でも、自営業なら夫婦揃って国民年金と国民健康保険に加入しなければならない。会社を辞めて無収入になっていても、独身の人は年金と健保に自主加入の義務が生じる。

 要するにサラリーマンの配偶者だけが、ことさら手厚い保護を受けているのだ。これは税や社会保険料負担の公平性に反するんじゃないだろうか?

 非正規雇用も増えているし、未婚や離別で独身になってる人も多い。将来的にはサラリーマンの配偶者だけを優遇する現在の制度に対して、不公平だという声が強まっていくと思う。(すでにそういう声はあるけどね。)おそらく今後10年以内に、サラリーマンの配偶者からも年金保険料や健康保険の保険料を徴収しようとする動きが出てくると思う。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

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