となりのイスラム

となりのイスラム

 副題には「世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代」とある。現代社会のイスラム教徒の暮らしや考え方を平易な文章で紹介してくれるイスラム入門で、とても興味深く、面白く読むことが出来た。

 日本で出版されているイスラム入門書には、いくつかの大きなパターンがある。

  • クルアーンやスンナなどに書かれるイスラム教の教えを通して、イスラム教徒の生活や考え方を紹介するもの。井筒俊彦の本などはこの典型。
  • 中東やヨーロッパで起きているイスラム関係の事件や最近の研究事例などから、最近のイスラム教の事情について解説したもの。ヨーロッパやアメリカの学者の翻訳も多い。
  • イスラム教徒である著者の視点を通して、イスラム教に対する非イスラム側の誤解や偏見を除こうとするもの。(最近は日本人ムスリムによる本も増えてきている。)

 しかしこの本は、このどのパターンにも当てはまらない。それが本書のユニークな点だ。

 著者はイスラム地域研究家で、頻繁に中近東のイスラム圏やヨーロッパに足を運んでいるが、本人はイスラム教徒ではないという。長年に渡ってイスラム教徒と親しく付き合い、彼らの生活習慣や考え方を知りつつ、彼らと同化することなく「他者」としてのポジションを取り続けているわけだ。

 著者が考えるイスラム教徒の特徴は、以下の5つだという。

  1. 人間が一番えらいと思わない人
  2. 人と人のあいだに線引きをしない人
  3. 弱い立場の人を助けずにはいられない人
  4. 神の定めたルールのしたでは存分に生活をエンジョイする人
  5. 死後の来世を信じて、楽園(天国)に入れてもらえるように善行を積もうとする人

 著者はこれらのことについて、具体的なエピソードを交えて紹介していく。だがクルアーンや六信五行のような、教科書的なイスラム紹介からは少し距離を置いている。この本で紹介されているのは教科書的な「イスラム教」ではなく、イスラム教の教えを今も生きる「イスラム教徒」の姿なのだ。

 それは日本人も含めた西欧型の考え方をする人たちとは相容れない生き方をしている人たちだが、その生き方にはイスラム流の人間洞察や社会洞察に裏打ちされた合理性がある。日本人の目から見ればそれは不合理に見えるかもしれないが、ひとたびイスラムのルールの中に入ってしまえば、それこそがもっとも合理的なのだ。だが両者の考え方や生き方に、何らかの妥協点を見つけて折り合いを付けるのは難しい。

 そのきしみがイスラム原理主義過激派の活動やイスラム国の台頭という形で社会問題化しているのだが、それに対して西欧型社会がイスラム排除やイスラム教徒に対する世俗化の強要という態度を取れば、ますますきしみは大きくなる。

 著者は本書の終盤で、ヨーロッパでのイスラム排斥とイスラム国の台頭の背景を解説する。だがそれに対して、いかなる処方箋も、着地点も示せずにいるのだ。「ここまでわかっているのに、なぜ出口が示せないのだろうか?」とも思うが、ここまでわかっているがゆえに、かえって容易な処方箋や着地点を示せないのかもしれない。

 いずれにせよイスラム教徒は今後も増えていくだろうし、日本でもイスラム教徒に接する機会は増えていくだろう。そのとき日本人はヨーロッパと同じ「排除」の方向に動くのか、良い意味で日本的な宗教への寛容さや鷹揚さを発揮してイスラムと「共生」していく道を選ぶのかが問われている。

 僕はここで日本人の「宗教に対するだらしなさ」に期待したいのだが、最近は日本でも排外主義的な言論がまかり通るようになっているので、実際には暗い未来が待っているかもしれない。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書

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