かわいい☆キリスト教のほん

かわいい☆キリスト教のほん

 「完全教祖マニュアル」や「仁義なきキリスト教史」の架神恭介による、かなり本格的なキリスト教史の本だ。

 正直言うと、この本を誰が読むんだかさっばりわからない。出版社はなぜこんな本を企画して出してしまったんだろうか。勘違いされると困るのだが、それはこの本がつまらないとか、内容的にどうしようもないと言っているわけではないのだ。

 むしろそれは逆で、この本はものすごく本格的でハードなキリスト教史の概説本になっている。キリスト教について学ぶにはキリスト教史(教会史)の知識が不可欠なのだが、この本はカトリックにもプロテスタントにも偏ることなく、イエスの時代から現代までに起きた重要事項が網羅されている。

 著者は自称「ファッション仏教徒」なのだという。信仰の外側から書かれたキリスト教の本として、記述の正確さやバランスの点で、これがとても優れた本であることは間違いない。著者は聖書をしっかり読み込んでいるし、キリスト教史についてもかなりの勉強をし、難解な教義や教理についても精一杯理解しようと務めた上で、自分の理解できる範囲内のことを書いているように見える。知ったかぶりせず、わからないものはわからない、受け入れられないものは受け入れられないと言い切る姿勢は清々しい。

 しかし記述のタッチはひどく辛辣だ。キリスト教を突き放し、嘲笑し、あきれ返ってみせる言葉にあふれている。それがこの本を、「誰が読むんだかさっばりわからない」ものにしているのだ。世の中にはキリスト教の概説書が溢れかえっているが、キリスト教史の概説本は少ない。キリスト教概説書の多くは、じつはキリスト教系の出版社から出されている。キリスト教史はキリスト教徒が学ぶものなのだ。ごく簡単なものは、キリスト教系学校の授業で教科書として使われるために出版されている。

 しかしこの「かわいい☆キリスト教のほん」を読んで、どれだけのキリスト教徒が面白がれるだろうか。教義や教理について真面目に考えるより「家に帰ってオナニーしていた方がまし」と言い切るこの本に、違和感や不快感を持つ信徒の方がずっと多いことは想像に難くない。ここでは初代教会の信徒たちも、初期キリスト教会の教父たちも、その後のカトリックもプロテスタントも、ケチョンケチョンに、ギッタギッタに揶揄されているからだ。

 ではこの本は、キリスト教徒ではない一般の人向けの本なのだろうか。そうとも言えるのだが、これもかなり読者を限定してしまっている。この本はキリスト教やキリスト教の歴史について、ある程度の事前知識を持っていないと面白く読めないからだ。それこそ信徒向けのキリスト教史概説本を1冊か2冊は読んだ上で、信仰抜きにこの本を読める人には痛快な読み物だと思う。でもそんな人が、この日本にいったいどれだけいるんだろうか?

 たぶんこの本はさほど売れないはずだ。おそらくそのことは、著者も承知の上でこの本を書いている。さして売れないとわかっていても、本を何冊か書き上げさせてしまうだけの力がキリスト教や聖書にはあるということだろう。その魅力はどこにあるのか。

 それはこの本の巻末に簡単に触れられているように思う。

聖書には素晴らしい教えしかないのに、後のキリスト教徒がそれを実践できずに邪悪な振る舞いをした、というわけではなく、素晴らしさも邪悪さも含んだ至って人間的な書物「聖書」があり、同時に素晴らしい面も邪悪な面も持つ人間的な人間がそれを実践してきたのです。キリスト教というやつは人間の美しさも邪悪さもそのままに体現している、まさに人間そのもの、まったくもって人間的な行為ではないかと思うのです。

 聖書に書かれているのは「宗教的なキレイゴト」ではなく、生々しい人間ドラマそのものだ。そこには人間のもっとも美しい面も書かれているが、もっとも邪悪な面も書かれている。そんな聖書を正典とするキリスト教もまた、称賛に値する素晴らしいことを行うと同時に、誰もが眉をひそめるような血なまぐさい行為に手を染めてきた。

 著者にとっては「仁義なきキリスト教史」に続くキリスト教史の本だが、前著が歴史の中にある個々の「点」をクローズアップして小説風に綴ったものであるのに対して、本書はキリスト教2000年の歴史を「線」として記述する本になっている。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書

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