戦争の記憶と反戦映画(または反戦ドラマ)

ゴジラ

 1954年の映画『ゴジラ』に、東京大空襲の記憶が重ね合わされているのは有名な話だ。『ゴジラ』が公開されたとき、1945年3月10日の大空襲の記憶はまだ生々しく残っていた。ゴジラに破壊される東京は、そのまま戦時中に空襲被害にあった東京の記憶に重なり、それはまた、空襲被害を受けた他の都市の記憶にも重なり合った。

 『ゴジラ』は今観ても立派な映画だが、この映画をリアルタイムで観た人々が肌で感じた「空襲の恐怖」を、現代の観客が感じることは出来ない。映画の作り手と観客が、映画を通じて確認し合った「記憶の中の風景」を、我々はもう共有することができない。

 というわけで、これは先日書いた「日本映画と反戦思想」の続きなのだ。

 NHKの朝ドラ(連続テレビ小説)は女性の一代記の中に、戦争のエピソードを入れるのが定番の構成になっていた。それは第1作目の「娘と私」(1961)から一貫している。多少の例外はあるものの、これは最新作の「べっぴんさん」(放送中)まで綿々と続く、NHK朝ドラの基本コンセプトであり、アイデンティティみたいなものでもあるのだ。

 こうなった理由はやはり、朝ドラ創成期に作り手と視聴者の間で「戦争の記憶」を共有していたという、自体背景があったのだと思う。そして朝ドラにおいては、主人公が常に「戦争の被害者」だった。朝ドラのヒロインにとっての戦争は、「夫や家族を兵隊に取られること」であり、「統制経済で物資の欠乏に耐えること」であり、「戦時下の窮屈な暮らしを強いられること」であり、「空襲で家や財産を失うこと」であり、「家族の戦死公報を受け取ること」であり、「戦後の混乱した時代を生きること」だった。これは朝ドラのメインターゲットである主婦たちにとって、自分自身の青春時代や子供時代の記憶そのものだった。

 一方で男たちはどうだったかというと、彼らもまた戦争の深い傷を抱え込んでいた。戦争によって親兄弟や友人たちの命が多数奪われた。軍隊生活は理不尽で不条理な暴力に満ちていた。外地でも内地でも、軍隊での生活は常に死と隣り合わせだった。苦心惨憺した挙げ句に、日本は戦争に負けた。自分たちが命をすり減らして苦労したことは、すべてが何の意味もないものだった。そこには何の大義名分もなかった。

 戦後の日本で戦争映画や戦争ドラマを作れば、それは必ず反戦や厭戦の気分が濃厚に漂うものになる。日本人のほとんどすべてが、自分の体験した戦争について同じような気分を共有していたのだから当然のことだ。

 もちろん、戦争中にすべての日本人が同じ苦労をしたわけではない。空襲を受けない地域もあれば、ほとんど戦争の被害を受けなかった家族もある。地方農村部には食料が有り余っていたし、統制経済の下で闇市場に食料を流して潤っていた者もいるだろう。

 だがそうした個々の事例とは別に、日本全体の「気分」としてはやはり「戦争は嫌なもんだ」「戦争は間違っていた」ということになる。それが戦後日本の、国民的な合意事項であり、常識だったと言ってもいい。戦争の生々しい記憶が社会の中で共有されていた時代は、それに対して異論をはさむ者などいなかった。

 だが戦後の高度経済成長以降の社会しか知らない世代(僕もそうだが)にとって、戦争は自分自身の実体験に基づいているわけではない。もちろん親戚の誰それが戦争で亡くなったとか、親戚の誰かが空襲に遭っているとか、そういうレベルの話は聞くのだが、それだけのことだ。それは「歴史」の中の話であって、「自分の物語」ではない。だから「反戦」や「厭戦」の気分が濃厚な日本の映画やドラマを、当事者世代と同じようには見ることができなくなる。

 朝ドラの中の太平洋戦争は戦後のある時期から、映画『風と共に去りぬ』(1939)の中の南北戦争と変わらないものになった。『風と共に去りぬ』は南部出身のヒロイン、スカーレット・オハラの一代記で、映画の中盤に南北戦争で南部がメチャメチャに破壊しつくされる場面が出てくる。世間知らずのヒロインは南部連合の大義を信じているが、結果として戦争は北軍の勝利に終わって南部は焦土と化す。『風と共に去りぬ』は今観ても名作だと思うが、そこに描かれた南北戦争は「歴史の中の出来事」だ。朝ドラの中の戦争も、今ではそれと同じ「歴史の中の出来事」になっている。

 戦争の記憶が失われた今、日本で戦争を扱った映画やドラマをどのように成立させるかは、おそらく作り手たちの悩みの種でもあるだろうと思う。しかし「戦争体験の共有」という国民的な合意が失われたからこそ、作り手はそれを前提としない作品作りが可能になるのかもしれない。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

戦争の記憶と反戦映画(または反戦ドラマ)」への1件のコメント

  1. ピンバック: 戦争の現実と映画とドラマの嘘 | 新佃島・映画ジャーナル

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