さらば白人国家アメリカ

さらば白人国家アメリカ

 著者の町山智浩も、アメリカ大統領選ではクリントン勝利を予想していたという。しかしアメリカ大統領選を主に共和党の候補者レースの観察を通して描いた本書を読むと、なぜ彼がトランプ勝利を予期できなかったのかが不思議なくらいだ。

 この本に登場するドナルド・トランプは、他のどんな共和党候補よりも度量が広く、見識が深く、アメリカという国が抱えている問題点に真正面から向き合っている人材に見えてしまう。著者はトランプが支持者に約束しているような、白人中心のアメリカに反発している。それは自分が魅了されたアメリカではないと、明確にノーを突きつけている。しかしそれと同時に、著者の筆はトランプについて書いているときイキイキと跳ねている。好き嫌いは別としても、トランプはやはり面白い人物なのだろう。

 本書の前半はアメリカ国内での共和党予備選挙に立候補した主要候補者を一人ずつ取り上げながら、その背後でアメリカの政財界や外交政策を牛耳る魑魅魍魎の姿を暴き出していく。それは政治道楽の大富豪であったり、国政に強い影響力を与えるシンクタンクだったり、国民の狭量な差別意識をあおり立てるマスメディアだったりする。こうしたアメリカ政治の実態を、著者はブッシュ政権時代から日本の読者向けにレポートしていた。そこには一部の富裕層に支配されたアメリカに対する、著者の苦々しい気持ちがあふれていた。

 だがドナルド・トランプは、そうしたアメリカ政治の宿痾をはね飛ばしてしまうのだ。確かに彼は差別的な発言を繰り返している。政治的にも素人だろう。経歴を見ても、ことさら大統領向きの人物だとは言えないのかもしれない。しかし彼は共和党から立候補し、共和党主流派の他の候補者を蹴散らすことで、共和党を長年縛り付けてきた「白人富裕層や宗教右翼による共和党支配」という構造をたたき壊してしまった。

 トランプの勝利は共和党の勝利だ。心情的に民主党びいきの著者は、トランプの勝利を残念に思っていることだろう。だが同時に著者は、トランプが共和党の屋台骨をねじ曲げ、へし折り、踏みつけて勝利したことを、痛快にも感じているはずなのだ。

 この本に掲載されているレポートは、大統領選挙の本選投票直前で終わっている。しかしここに書かれている内容は、現時点ではまだ古びていないと思う。アメリカ政治を現地からレポートする著者の立ち位置は、日本では他に類をみないものになりつつある。今後もこの著者の書くものからは目が離せないと思う。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書

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