寺田寅彦は忘れた頃にやって来る

寺田寅彦は忘れた頃にやって来る

 『随筆家として、物理学者として、寺田寅彦がどんな人物だったかを述べたのが本書である。』と、著者のあとがきにある。おそらくこの一文が、この本の性質を一番良く言い表しているだろう。寺田寅彦は今でも人気のある随筆家だが、この本はその作品を紹介するものではない。作品からの引用も多いが、それは寺田寅彦という「人物」を浮かび上がらせるための素材なのだ。

 必要なことは一通り書かれているように思うが、評伝としては人物への踏み込みが浅く、作品の引用から随筆家としての魅力がしっかり伝わってくるわけでもない。情報は総花的で、読了時に強く印象に残る部分は残念ながらほとんどない。

 本書には読み終えると思わずAmazonで寺田寅彦の随筆集を購入してしまうとか、他の寺田寅彦関連本を探してしまうというような「引き」がないのだ。著者が寺田寅彦の良き読者であることはわかった。本文中の地図やイラストまで、著者が自ら描いているほどだ。しかしそこから、紙面を通して読者に感染してしまうような熱量は感じられない。

 タイトルは「天災は忘れた頃にやってくる」という寺田寅彦の有名な言葉のもじりだ。初版は2002年。そのため当然この本では、東日本大震災のことはまったく考慮されていない。大震災後には各社から寺田寅彦関連本や地震津波に関する彼のアンソロジーが出たのだが、この本はそうした時節柄の話題とはまったく無関係に出され、結果として今読むと迫力の無い、間の抜けた本になってしまったのかもしれない。

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