うちのお寺は曹洞宗(文庫オリジナル版)

うちのお寺は曹洞宗

 我が家は実家の菩提寺が曹洞宗なので、手軽な入門書として文庫本の本書を読んでみた。同じ出版社から1997年に同じタイトルの単行本も出ているが、単行本の著者が藤井正雄となっているのに対して、本書の著者は「我が家の宗教を知る会」になっている。しかもご丁寧なことに「文庫オリジナル版」とまでうたっているのだから、これは「単行本とは関係ないですよ」という意味なのだろうか。この文庫版の発行は2015年。ふたつの本の関係性は不明だ。

 そんなわけで成り立ちには多少奇妙なところがある本なのだが、本の内容自体は素晴らしい。冠婚葬祭入門に毛が生えた程度だと高をくくっていたら、これは嬉しい誤算だった。この本は「曹洞宗入門」であると同時に「曹洞宗視点からの仏教入門」でもあるのだ。

 紀元前5世紀(あるいは6世紀)に誕生した釈迦の教えは弟子たちに伝えられ(初期仏教)、大乗仏教の成立を経て、教えは周辺世界に広がっていく。やがて仏教は日本へも伝播。国家護持の仏教は、鎌倉時代に日本独自の新仏教となって民衆に浸透していく。禅宗はその中から生まれ、栄西は臨済宗、道元は曹洞宗の開祖となった。このあたりまでは、どんな仏教入門にも載っていることだ。

 本書はここから日本に伝わり発展した禅宗三派の違いを論じて、曹洞宗の特徴を浮かび上がらせていく。臨済宗に学んだ道元が中国(宋)に留学し、臨済禅を持ち帰って来たいきさつ。江戸時代には中国僧の隠元が念仏禅を伝え、臨済宗や曹洞宗がそこから影響を受けたこともあったが、その後に教学研究が進んで道元禅へと回帰していく。隠元をルーツとする禅宗は、やがて黄檗宗という宗派になった。

 臨済宗には福井県の永平寺と、横浜鶴見の総持寺というふたつの総本山がある。曹洞宗の開祖道元が開いた禅道場が永平寺で、曹洞宗第三祖の義介に学んで彼と共に永平寺を降りた瑩山が開山したのが総持寺だ。日本史の教科書や一般的な仏教入門書には道元の名前しか出て来ないが、曹洞宗の歴史で見ると総持寺を開いた瑩山の功績はとても大きい。曹洞宗が日本有数の大教団になったのは、瑩山と弟子たちのおかげなのだ。曹洞宗では道元を高祖、瑩山を太祖と呼び、ふたりを合わせて両祖と呼んでいる。

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 本書はこうした曹洞宗の成り立ちを、Q&A(序章)、釈迦から禅宗誕生までの仏教史(第1章)、両祖の伝記と曹洞宗史(第2章)、曹洞宗の禅についての解説(第3章)、法事や仏壇など曹洞宗のしきたり(第4章)、日本各地の主要な寺院紹介(第5章)という構成でまとめている。内容的にはダブるところも幾つかあるのだが、それは曹洞宗の中でも特に大事な部分、重要な部分だと受け止めておけばいいのではないだろうか。

 仏教入門の多くは紀元前5世紀の釈迦の教えから語り始め、鎌倉新仏教を経て江戸幕府の宗教政策ぐらいで息切れしてくる。だがそれらはすべて「過去の仏教」であって、我々の身近にある「お寺」や「僧侶」や「葬儀」や「お墓」とどうつながっているのかがわかりにくい。この本は「曹洞宗」という特定の宗派にフォーカスを当てることで、今もなお日本という国の中で生きている「仏教」と、お釈迦様の時代から続く「仏教史」とを上手く結びつけることに成功していると思う。

 仏教は歴史の本や教科書の中にある「昔の尊い教え」ではない。仏教は今もこの世界で生きている。当たり前のことだが、これは一般的な仏教入門書では見落とされがちなことでもある。本書はその「当たり前」に気づかせてくれる良質な入門書なのだ。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書

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