超訳 日本国憲法

超訳 日本国憲法

 発売直後に買ったまま放り出していた、池上彰の「超訳 日本国憲法」をようやく読んだ。戦後すぐに翻訳調の口語文で書かれた日本国憲法を、池上流に噛み砕きながら「和文和訳」するという試みだ。じつは似たようなことは僕も「日本国憲法をリライトする」という電子書籍で行っているのだが、池上版の超訳は単に条文の言葉づかいを修正するだけでなく、条文を読むだけではわかりにくい部分を補った敷衍訳になっているのが特徴だ。

 カバーの帯には「全文・超訳」と書かれているが、じつは条文によっては超訳せずに、原文に著者の解説を添えただけの部分もある。おそらく全体の半分ぐらいは、超訳なしに解説で済ませている。超訳している部分も含め、憲法と密接につながりあっている関連法の条文を引用して解説したり、現憲法のもととなった他の文書を引用したりすることで、憲法の成り立ちが立体的に浮かび上がってくる。憲法についての解説的な読み物としては、とてもよくできているものだと思う。

 ただしこの本はあくまでも、池上彰流の解説である点には注意が必要だろう。テレビで活躍している著者の発言や、さまざまなメディアで発表されている著者の言葉などからもわかる通り、著者は単なる「解説屋」ではなく、基本はジャーナリストだ。ジャーナリストは世間に向かって物言う人々であって、そこには当然ジャーナリスト本人の意見というものも入っている。この本の場合は日本国憲法を解説しながら、自民党の「憲法改正草案」、特にその中にある憲法9条改正案に対して意見するという面が大きい。

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 僕自身も自民党の改憲草案はまるでダメだと思っている。例えば本書でも引用されている自民党改憲草案による第9条の第2項では、自衛隊を改組する形で成立する「国防軍」の役割として、以下の4項目をあげている。

  1. 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するための任務
  2. 国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動
  3. 公の秩序を維持するための活動
  4. 国民の生命若しくは自由を守るための活動

 このうち1については国会の承認が必用なのだが、2以下については法律を作って対処することになる。その法律を作るのは国会なので、結局はすべて国会を通すことになるはずだ。しかし自民党の憲法改正草案には、緊急事態条項というものが含まれている。

 それによれば、緊急時には内閣の閣議決定によって「緊急事態」を宣言し、法律と同一の効力を有する政令を制定することができることになっている。つまり緊急事態が宣言されれば、政府は自由に自衛隊を動かして、事実上何でも行うことができるのだ。

 ちょっと脱線したので、話をもとに戻す。

 著者がこの本の中で何度も強調しているのは、国民は不断の努力で「立憲主義」を守らねばならないという原則論だ。立憲主義とは、憲法によって権力の暴走を縛るための仕組み。憲法は国民が国に対して「これをやれ」「これはやるな」と命じるものであって、その遵守義務は、天皇または摂政、国務大臣、国会議員、裁判官、その他の公務員に課せられている。国民は憲法の縛りの外側にいる。

 憲法を改正する必要があるなら、改正すればいい。しかしそれは「立憲主義」という原則の中での改正になるべきで、自民党の改憲草案のように「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。」などと憲法によって国民を縛り付けようとするのは話がまるでアベコベなのだ。

 著者は注意深く中立的な言葉を選んでいるが、それでも本文の端々から、改憲派に対する批判的な思惑がうかがえる。そうした著者のバイアスに留意して読めば、この本は時事的な話題も織り交ぜながらわかりやすく書かれた日本国憲法の解説書だと思う。ニュースなどで憲法の話題が出るとき、この本を読んでおけば理解が深まることは間違いないだろう。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書

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