日本国憲法が悪い!という陰謀論

安倍首相

写真:産経新聞

 美しい日本の憲法をつくる国民の会が主催する「今こそ憲法改正を!1万人大会」という催しが、日本武道館で開催されたというニュース。美しい日本の憲法をつくる国民の会は保守系の民間団体「日本会議」の関連団体。日本会議には保守系の国会議員なども数多く参加していることで知られ、同会議の国会議員懇談会には安倍首相が特別顧問として参加しているという。

 僕などはそもそも「美しい日本の憲法」という表現に首をかしげてしまうのだ。この「美しい」は「日本」にかかるのだろうか、それとも「憲法」にかかるのだろうか? 川端康成がノーベル文学賞を受賞した際の記念講演「美しい日本の私」にも似てるけど、これは安倍首相が2006年に出版した「美しい国へ」で使っていた「美しい国=日本」という表現にひっかけたものなのだろう。

 要するに美しい日本の憲法をつくる国民の会という団体自体が、安倍首相の応援団という性格を持っているのだ。今回の催しには安倍首相自身は出席しなかったが、出席者に向けてビデオメッセージで(次のように語りかけたらしい)。

現行憲法は日本が占領されていた時代に、占領軍の影響下でその原案が作成されたものであることも事実であります。

 典型的な「押しつけ憲法論」なのだが、一方で安倍首相はこうも言っている。

わが国は戦後、現行憲法の下で、自由と民主主義を守り、人権を尊重し、法を尊ぶ国として、一貫して世界の平和と繁栄のために貢献してまいりました。現行憲法のこうした基本原理を堅持することは、今後も揺るぎないものであります。

 首相が「堅持する」と断言する、自由主義、民主主義、人権主義、法治主義、国際平和主義などが、まさに占領軍の影響下で日本に押し付けられたものだと思うんだけど……。

 だから安倍首相をはじめとする自民党内の憲法改正派は、現憲法の掲げる自由主義、民主主義、人権主義、法治主義、国際平和主義などに、一定の制約を加えようとしているではないか。それでいて「現行憲法のこうした基本原理を堅持する」というのは、なんだか腑に落ちない話だ。

 まあ改憲派のリーダーである安倍首相ですら短いスピーチの中で主張の一貫性を保てないくらいだから、改憲派が集まってそれぞれの主張を述べ合えば、それぞれの主張は支離滅裂ででたらめなものになるのが当然だ。

 例えば、美しい日本の憲法をつくる国民の会共同代表の櫻井よしこはこう主張する

国際法に基づいて秩序と平和を維持するのか。力によって平和を壊し秩序を変えるのか。私たちはそのどちらを世界の基盤とするのか。その答えは明らかであります。

 日本国憲法は国際協調主義なので、戦後の日本人は憲法の規定に従い、国際法に基づいて秩序と平和を維持する道を選んできた。「国際法に基づいた秩序と平和を維持」と「力によって平和を壊し秩序を変える」ことの二択であれば、日本人はもちろん前者を選ぶ。しかし櫻井よしこはこう主張するのだ。

現行の日本国憲法で、果たして日本国民と日本国を守り通すことができるのかと。答えは否でありましょう。現行の日本国憲法では、力による現状変更を続ける国々の脅威に対して、わが国はまともに対処することができません。

 なんと櫻井よしこは、国際法に基づいて秩序と平和を維持する日本国憲法では、もはや日本国民と日本国を守り通すことができないという。そして力による現状変更を続ける国々の脅威に対して、わが国がまともに対処できるようになるためにも憲法を改正せよと言うのだ。

 力に対しては、力で対抗しろということか……。

 これってなんだか、ひどく物騒な話だな。力づくで押してくる相手に対しても話し合いで解決するというのが、戦後の国際秩序の大原則だったはず。力に対して力で対抗するのは相手を「話し合い」のテーブルに着けるためであって、力によって外交問題を解決することがあってはならないというのが基本だと思うんだけど、櫻井よしこにはそうした考えはないらしい。

 次世代の党の中山恭子代表のあいさつは、もっと過激だった。こんなことを言っている。

私たちは、日本国憲法が独立国家の憲法ではないということを、しっかり認識する必要があると思います。この憲法に忠実にあろうとすればするほど、日本が独立国家としての体をなさなくなり、平和の維持すら危うくなってしまいます。

情けない国になってしまったと思ったことは何度もございます。なぜでしょうか。突き詰めていけば、日本国憲法に行き着きます。

 中山恭子さんによれば、日本は「美しい国」どころか「情けない国」なのだという。憲法を変えない限り、日本が「国際社会から信頼され尊敬される国家として存立する」ことはあり得ないというお考えらしい。

 そうなのか? 日本はそれほどまでに、情けない国なのか?

 改憲派の言葉から見えているのは、「現在の日本に対する不平や不満」なのだ。日本は本当なら、もっと素晴らしい国であるはずだ。日本はもっと、世界から愛され、尊敬される国になれたはずだ。しかしそれを日本国憲法が邪魔している。この憲法があるばかりに、日本人は道義や道徳を失い、利己的になり、国際的な信用や信頼を損ねている。

 日本の平和主義は、戦後の進駐軍が日本にかけた呪いであり洗脳だった。日本人の多くはその呪いが解けないまま、お花畑のような空想的平和主義の中に閉じこもっている。

 憲法さえ改正すれば、日本人は本来の誇りを取り戻すはずだ。世界一流の道義国家・道徳国家として国際的な称賛を浴び、経済においても一流の大国に返り咲き、世界のリーダーとしてものを言える国になる。憲法改正さえできれば、日本にあるほとんどの問題は解決する。

 これって、たちの悪い陰謀論だろうに。

 最近の保守陣営というのは、本当にたちが悪い。自分たちにとって都合の悪いことを、特定の「仮想敵」になすりつけて、それさえ倒せば物事は解決すると思っているらしい。その敵は、例えば日教組、例えば朝日新聞、例えば在日外国人、例えば日本国憲法などだ。僕から見れば、こんなのは「ユダヤ人陰謀説」などと何も変わらない。ユダヤ人が、イルミナティーが、宇宙人との密約がと大まじめに言っている人たちと、「日本国憲法が悪い」と言っている人たちは同じ顔をしている。

 「今こそ憲法改正を!1万人大会」に出席したケント・ギルバートは、一部護憲派の主張を「怪しい新興宗教の教義」と揶揄しているのだが、じつは「怪しい新興宗教」になり果てているのは改憲派の方なのではないだろうか。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

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