トートバッグの盗作はなぜ起きたか?

トートバッグ

 デザイナーの佐野研二郎による「盗作」や「パクリ」で言い逃れのできない決定的な事例とされるのが、サントリーのためにデザインしたトートバッグの中のいくつかの例だ。これは間違いなく「盗作」なのだが、しかしながら一体何がどう「盗作」されたのかが良くわかっていない人も多いのではないだろうか。

 例えネットに公開されているフランスパン(バゲット)の写真を無断使用したとされるトートバッグだが、これは単に「写真の使用許可を得ていなかった」というだけの話で、デザインそのものが盗作か否かという話とは別問題だ。ただしプロのデザイナーともあろうものが、写真素材の使用許諾を得ないまま商品に使って発表してしまったというのは致命的な落ち度で、うっかりミスでは済まされない話だろう。

 これはデザインの盗作ではない。でも盗みではある。スーパーの棚から商品を手に取るのは自由だ。でもそれを店の外に持ち出すには、レジを通してお金を払わなければならない。そこで「うっかりしていました」という言い訳はまず通用しないだろう。写真の無断使用は、つまりそれと同じタイプの盗みなのだ。

 こうした「盗み」が発生するのは、デザイン作業がデジタルになり、インターネットが普及したからこそだと思う。

 僕がデザインの仕事に関わっていたのは30年近く前だが、その頃もデザイナーは雑誌や写真集から写真をコピーしてデザイン作業をしていた。コピー機で拡大縮小するのだが、この時に重宝するのは縦横の拡大率を自由に変えられる変倍コピー機で、僕は電卓片手に拡大率を計算していたものだ。

 だがこうしてコピー機で作ったデザイン素材は、あくまでも当座のダミーでしかない。実際の印刷原稿を作る作業では、こうしたダミーに合わせて新たに写真を撮り直したり、イラストを描き起こしたりする必要がある。当たり前のことだが、雑誌の写真や写真集の写真をコピーしただけでは、解像度の問題で印刷用の原稿に使えないからだ。

 しかし今はどうだろう。インターネットの中を探せば、雑誌や写真集を探し回らなくても検索キーワードひとつでさまざまな写真素材を探せる。その中には印刷に使える解像度のものも少なくない。それらをデザイン作業の素材として使うことは、当然あり得るだろう。(というか、みんな当然やってるよね……。)

 でもそれを実際の商品にするなら、作者に使用許可を得なければならない。何らかの金銭的な対価が発生することもあれば、「出来上がった商品をください」という現物支給で間に合わせることもあるだろう。これはケースバイケース。そして許可が得られない場合は、当初の素材を「ダミー」とみなして、自分たちで新たに素材を作り直す必要がある。(あるいは許可が得られる他の素材を使うのだ。)

 今回のフランスパンの例で言えば、パクリ疑惑が発生したあとパンの写真をネットに発表していた本人に「これはあなたの写真の無断使用ではありませんか?」と問い合わせた人がいて無断使用が明らかになった。つまりデザイナーも同じように、「写真を使用したいのですがよろしいでしょうか?」と連絡することは可能だったのだ。おそらく写真使用の対価はせいぜい数万円。それの他に、完成したトートバッグを本人に5枚か10枚送ってあげれば誰も不満はなかったはず。

 でもそれをしなかったのはなぜなんだろうか? このへんがどうも、僕には理解できないんだよな……。

 僕は今回の件を「デザインの盗作」だとは思わないけれど、仕事のやり方が雑だなぁ〜とは思った。でもそういう点で雑な(ルーズな)デザイナーは、結構多いのかもしれない。今回の事件をきっかけに、デザイン業界の中でそうした点がしっかりするといいんだけどね。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中