新国立競技場の建設にGOサインを出す人たち

トラ・トラ・トラ!

 オリンピックに向けて建設される予定の新国立競技場は、結局建設費2,520億円でGOサインが出たのだという。これは何重にもバカげた話で、日本中で「アホか!」「バカか!」「頭どうかしたんじゃねえの!」「ヤメロ!」という声が巻き起こっているが止められない。この問題は、現在の日本の状況を象徴しているように思える。

 そもそも新国立競技場の建設には、1,300億円という予算が組まれていた。前東京都知事の猪瀬直樹氏によれば、これは「最大でも1,000億円しかかからないだろうが、万が一のために少し上乗せしておく」という金額だったらしい。日本のドーム式スタジアムの建設費では、京セラドーム大阪がこれまで最高の建設費で約700億円かかっている。だから新国立に最大で1,000億円というのは最近の建材建築費の高騰を考えても妥当な予算だったような気がするし、京セラドームの2倍弱まで予算の余裕を見たという点で、これは余裕綽々の予算組みだったのだ。

 ところが新国立競技場のために国際コンペを行って見事1等で採用となった案は、この建設予算案を大幅にオーバーしていた。建設費はざっと3,000億円。デザイン案を募集するに当たっては予算の概要も条件に入っていたはずで、これを大幅に超過した時点で本来ならこのデザイン案は「失格」にすべきなのだ。あるいはコンペ1等で賞金は出しても、実際の建設については2等以下のもっと妥当で現実味のある案を採用する方法もあっただろう。

 だがそうはならなかった。3,000億円かかるとされたデザイン案は、規模を多少縮小することで建設費1,650億円まで予算を圧縮することになる。でもこれは「最大で1,000億円。念のために1,300億円(想定予算の3割増までは許容する)」という予算から見ると、既にとんでもない予算超過なのだ。

 これは「マンション購入の予算が3,000万円だけど、条件のいい物件があるなら最大で4,000万円以内まではギリギリOK」と考えていた人が、不動産業者に言いくるめられて5,000万円の物件を買ってしまうような話なのだ。身の丈に合わないこんな買い物をすれば、資金繰りが悪化して生活をかなり切り詰めなければならなくなる。しかも購入したマンションは管理費や修繕積立金も高く、ローン返済以外に毎月5万円を管理会社に支払わなければならない。もう自己破産に向けて一直線だよな……。

 賢明な人ならこういう時は、その物件にどんなに魅力があっても諦めるわけです。そして予算以内で購入できる、別の物件を探す。だが新国立競技場についてはそうならなかった。

 ところが話はこれで終わらない。新国立競技場の建設予算を精査したゼネコンは、建設予算として「やっぱり2,520億円かかります」と言いだした。この金額にどの程度の妥当性があるのかはわからない。僕は以下のような方法でこの新しい「見積もり」が行われたのだと想定している。

  • オリンピックやラグビーW杯の開会に間に合わせるために、今から大幅な設計変更はあり得ない。
  • 特殊な建築物なので国内でこの事業を引き受けられる業者は限られており、業者の言い値で工事費が決まる。
  • 当初予算が1,300億円なので、その2倍(2,600億円)を超えない範囲で見積もりを出せばいい。
  • 建設がスタートしてから、あれこれ理由を付けて費用が膨れ上がるのは十分にあり得ること。
  • つまり建設予算は2,520億円でも、実際の建設費は青天井で吹っ掛け放題。

 新聞報道などによれば、この2,520億円の中にはオリンピック開会後に設置される開閉式屋根や可動式観客席などは含まれて折らず、それらを含めるとやはり3,000億を超えるのではないかとの話。工事に入ってから起きる「不測の事態」や、今後さらに上昇して行く建設費や人件費によって、本体の2,520億円も肥大していく可能性が高い。安くなる理由はないが、高くなる理由なら山ほどあるのだ。メディアによっては5,000億などという途方もない金額を出しているところもあったが、そうならない補償はどこにもない。

 いずれにせよ一度こうした大型施設を作ってしまえば、その後の維持管理や運営にバカ高いコストがかかる。それらはスポーツや音楽イベントなどのレンタル料で賄うわけだが、首都圏には同様のイベントに使える大型施設が他にも何ヶ所かあるため、立派な施設だからと言ってあまり高いレンタル料を設定することはできない。スポーツイベントやコンサートに来る観客は、施設そのものを観に来るわけではないのだ。中身が同じなら、場所は新国立でも東京ドームでも武道館でも同じなのだから……。

 新国立競技場は作られた後も、黒字を出すことのない赤字施設として今後ずっと存在し続けることになる。お荷物になることは目に見えているのだ。なのになぜ、この建設を強行するのか?

 これは真珠湾攻撃と同じだというのが僕の見立てだ。外交交渉その他でにっちもさっちも行かなくなった日本が、状況を打破するために取ったもっとも愚かな選択がアメリカとの戦争だった。アメリカと戦争すれば負けることは最初からわかっていたが、役人も政治家も大甘な状況見通しを立ててそちらに舵を切ってしまった。

 真珠湾攻撃のニュースを耳にして、当時の日本人は胸のすく思いがしたのだ。行き詰まった状態が、それでとりあえず打開できたからだ。たぶん今回「2,520億円で行くぞ!」と決断した人たちも、同じように胸のすくような思いがしたと思う。でもそれが生み出す結果は、どうなるんだかなぁ……。

 新国立競技場のデザインについて「周囲の景観に合わない」「デザインがすぐに古びる」などと言う人もいるが、それは必ずしもマイナスではないと思う。都市のランドマークになる新しい巨大施設は、常にそう言われるものだからだ。東京タワーもそうだった。京都タワーも評判が悪かった。東京スカイツリーも完成予想図を見たときはバカげたデザインに思えた。海外だとエッフェル塔は当時のパリ市民の評判がひどく悪かったらしい。でもこうした建物も、一度できてしまえばそれが急速に周囲に馴染んで「なくてはならぬもの」になる。

 新国立競技場も、できてしまえば立派なものになると思う。世界に誇れる最新鋭の競技場になるだろうし、東京のど真ん中に作られる施設だから、レンタル料を適切に設定すれば「都心の廃墟」になることもないと思う。でも身の丈に合わない分不相応な施設であることは間違いないし、赤字垂れ流しのお荷物になるのも間違いないけどね。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

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