「プロ市民」という魔法の言葉

辺野古抗議集会

写真:週刊金曜日

 沖縄の基地反対運動について、「あれは本土から渡ったプロ市民が扇動している運動で、地元の人たちは誰も基地に反対していない」という主張をネットで見かけた。まあこれ自体は「アホか!」で済んでしまう話なのだが、程度の差こそあれ、あちこちで見かける「プロ市民」という言葉が気になるのでそれについて少し書いておく。

 「プロ市民」という言葉がいつ頃から使われはじめたのかはわからないが、僕がこの言葉について意識するようになったのは10年以上前だと思う。まあ正直な気持ちとして「うまいこと言うなぁ」と思った。かつては左翼的な政治イデオロギーで大勢の人を集めていた勢力が、冷戦終了後の左翼没落後に生き残りをかけて、あちこちで草の根的な市民運動に寄生していたからだ。マンガ家の小林よしのりは薬害エイズ問題に関わる中で、若者たちの自発的なボランティアグループが左翼運動家にからめ取られて行く様子を批判している。これもまたプロ市民のしわざ……ということになるのだろう。

 しかし市民運動が左翼グループに寄生され、やがて左翼的な言動を自らの主張として繰り広げるようになってしまうのは、ずいぶん昔から見られたことなのだ。労働運動は左翼の温床だし、反戦運動や反原水爆運動も左翼と切り離せない。でも「働いたんだから、働いた分だけの給料をよこせ!」ということに、本来は左翼も右翼もないはずなのだ。戦争に反対することも、核兵器に反対することも、別に左翼思想とは関係がない。しかしどういうわけか、これらは左翼と仲がいい。

 沖縄の反基地運動も、最初は農民たちの素朴で当たり前の主張から始まった。もともとの住民を銃を突きつけて追い出し、留守になった土地をブルドーザーで勝手に整地して飛行場や基地や演習場を作ってしまった。だから元住人が怒るのは当たり前なのだ。「取り上げた農地を返せ!」という主張に左翼も右翼も関係ない。ましてや土地を取り上げたのは外国人(アメリカ)だ。ここは右翼だって怒りの声を上げていいはずなのだが、どういうわけか反基地闘争は左翼の独壇場になっている。

 沖縄の問題については右翼はもっと怒るべきだと思うが、まあそれはまた別の時に書こうかな……。問題はプロ市民だ。

 市民運動はある程度の規模になると、それを組織化する必要が出てくる。ここで登場するのが、左翼系の市民運動グループなのだ。まあ普通の人はデモ行進をする際の道路の使用許可の取り方ひとつ知らないわけで、ここで「こちらは経験がありますから任せなさい!」と言ってくれる人がいればありがたい。左翼系のグループはデモ行進、集会、著名人やマスコミへのPR、プレスリリースの発行、ノボリや横断幕の手配など、豊富なノウハウを持っているから手早くやってくれる。大変にありがたい。

 しかし左翼グループはそれと同時に、現地で起きている当該問題以外の事柄についても、現地の人たちに支援を要請するようになる。例えば別の地域で起きている事柄についての誓願の署名を集めたり、寄付を募ったり、選挙での投票の協力を依頼したりする。左翼グループの中ではこれらはすべて「世の中の困っている人たちのため」という連続性を持っているのだろう。「困っている人同士が手をたずさえて互いに助け合おう」ということなのだろう。こうして市民運動グループはどんどん、左翼グループの主張に染まっていくわけだ。

 まあ、しょうがないんだけどね……。しかしこうなると、「運動がプロ市民に乗っ取られた」ということになる。

 沖縄の反基地運動は、ほとんどが左翼系のグループによるものだろう。その中には沖縄以外の土地から、多くの運動員を送り込んできているグループもあるだろう。そのぐらいのことは、現地を見なくたってだいたい誰にでも察しがつく。しかし運動をしているのがみんなそうした外部グループなのかと言えば、そんなことは絶対にない。これも現地を見なくたたって誰にでも察しがつくものなのだ。

 反基地運動にプロ市民が関わっているであろうことを、僕は否定するつもりはない。それに批判的な人たちも、現地には少なからずいるだろう。そうした人たちは「地元の人間に基地に反対する者なんていない」や、それに類することを言うかもしれない。それもまた彼らの偽らざる実感だからだ。

 しかし本土の人間がそれを真に受けて、「反基地運動は全部プロ市民ばかりで、現地の人間は誰もいない」などと考えるとおかしなことになる。外部のプロ市民だけで何万人も動員することはできないのだ。それがプロ市民だけで可能なのだとすれば、そこにはかなり潤沢な資金が流れ込んでいることになる。事実「反基地運動の動員のほとんどは金で雇われたアルバイトだ」と主張する人たちもいる。何万人規模の集会をアルバイトで成立させようとしたら、そこには一体どれだけの金が必要なんだ? 何百万円じゃきかない。何千万円、何億円だ。

 すると次は「その金はどこから出ている?」という話になる。国内の左翼政党にもはやそれだけの金を賄う資金力はない。ならばどこだ。中国か? こうして沖縄の反基地運動は、いまや中国共産党が扇動する反日運動だと思われるに至っている。

 とんだ陰謀論だよ……。

 沖縄の基地問題は、沖縄という地域の問題だけでなく、日本全体の問題だというのが僕の認識だ。沖縄は明らかに不当なことをされている。沖縄の人たちが反基地で怒りの声を上げるのは当然だと思う。実際の運動の中にプロ市民がまぎれ込み、彼らが反基地運動を組織化し、扇動し、一部で先鋭化した動きをしているのも事実かもしれない。だがそれを理由として「沖縄の反基地運動はプロ市民に牛耳られている」とか「沖縄は反日だ」などと言うのはバカげている。それは結局「沖縄の問題はワシらに関係ないもんね」とか「沖縄は黙って日本政府の言うことを聞いていればいいんだもんね」と言っているに過ぎないではないか。

 市民運動に精通した左翼系の「プロ市民」はどこにでもいる。沖縄にも当然いるだろう。しかし「あれはプロ市民がやっていることだ。わたしには関係ない」と言った瞬間、その人はその問題について、本質的なことを考えなくなってしまうのだ。「プロ市民」は思考停止のために持ち出されるマジックワードだと思う。

 まあ自分の気に触る市民運動については「あれはみんなプロ市民だ」と言い、自分の気に食わないマスコミ報道については「マスゴミの捏造だ」と言い、世論調査などで自分の意に沿わぬ結果が出れば「日教組の洗脳だ」と言っていれば済むんだから、頭を使わずに済んで楽だなぁ……とは思うけどね。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

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