死刑は廃止してもよくないか?

死刑制度に対する賛否

 1月に内閣府が死刑制度に対する国民調査の結果を発表したが、それによれば現在日本国民の8割を越える人たちが、死刑制度を支持しているそうだ。

 死刑制度については、以前もブログの記事で書いたことがある。その時『凶悪な事件が起きるたびに、僕の気持ちは死刑廃止論に傾いていく』と書いた気持ちは今も変わらない。僕自身は現在「もう死刑は廃止でいいんじゃないか?」とさえ思っていて、たぶんこれはよほどの状況変化が起きない限り変わりそうにない。以下、僕が「死刑は廃止でも構わない」と考える理由を書いておく。

■ 日本では人を殺しても死刑にならない

 おそらく世界中どこであれ、死刑廃止論者が死刑賛成派に投げかけられる質問の筆頭は「あなたは自分の家族が殺されても犯人に死刑を求めないのか?」だと思う。おそらく死刑制度を支持する人たちは、殺人者に対する当然の報いとして死刑の判決が下されるべきであり、多くの殺人者は実際に死刑になっていると思い込んでいるのではないだろうか?

 だが少なくとも日本の場合、これは大きな間違いだ。日本では殺人犯のほとんどが死刑にならない。これは犯人が逮捕されずに逃げているという意味ではなく、警察に逮捕されて裁判を受けても、ほとんどの殺人犯は有期刑か無期懲役にしかならない。死刑判決を受けるのはごくわずかだ。

 では具体的にどの程度の殺人犯が死刑になるのか?

 日本ではここ数年、1年間にだいたい千人ぐらいの殺人犯が逮捕されているのだが、裁判で死刑の確定判決が出るのは1年間に数件からせいぜい数十件に過ぎない。Wikipediaの「日本における死刑囚の一覧」から、21世になって以降、2001年から2014年までの14年間に死刑が確定したのは162人。年平均11人ぐらいが死刑という最終的な司法判断を下されているのだが、これは同時期に検挙された殺人犯の数に比べると、たった1%程度に過ぎない。

 もちろん裁判には時間がかかるので、同じ年の検挙数と死刑確定数を単純に比べても、それは「検挙された殺人犯の中の何人が死刑判決を受けたか」という話ではないのだが、それでもだいたいの傾向はわかると思う。殺人で逮捕されても、日本では99%死刑にならないのだ。

 「人を殺したら死刑になるのが当然だ!」「だから死刑制度はあってしかるべきだ!」と考えている人たちには残念な話かもしれないが、日本の司法はそのように考えていない。

■ 日本では死刑が確定しても刑が執行されない

 日本で死刑判決を受けるのは、よほどの凶悪犯なのだ。ではその凶悪犯は死刑になるかというと、今度は死刑が確定しても執行される数が限られている。

 21世紀に入ってからの死刑確定数が162人だが、同時期に死刑が執行されたのは63件。年平均4.5件だが、これも単純に同時期の死刑確定数と比較すれば、死刑が確定しても執行される率は40%以下ということになる。

 しかし実際には、日本中の拘置所に21世紀になる以前から収監されている死刑囚が大勢いて、2015年2月の現時点で130名になっている(2015年に死刑が確定した者も含む)。100人以上いる死刑確定者の中から年平均4.5人に死刑を執行しているのでは、実際の死刑執行率は数パーセントということになるではないか。しかも死刑確定済みで未執行になっている死刑囚は今後も増えていくことが考えられるので、死刑執行率は今後も低下する一方に違いない。

 殺人犯が検挙されたとしても、死刑判決を受けるのはそのうち100人に1人。さらに実際に死刑を執行されるのは、死刑判決を受けたものの中の数人に1人に過ぎない。

 「人を殺したら死刑になるのが当然だ!」「だから死刑制度はあってしかるべきだ!」と主張している人たちは、この現状をどう考えているのだろうか? たぶんこういう現状を一切知らず、死刑判決が出ただけで満足しているのだと思う。

■ 死刑肯定論の根拠は破綻している

 死刑制度には冤罪の問題が付いて回り、これも死刑廃止論の強い根拠になっている。袴田事件のような例を見れば、無実の罪で逮捕され死刑になることが誰にでも十分あり得る話だとわかるはずなのだ。しかし冤罪の問題を除外しても、死刑制度はひどく不合理で不公平な制度だと思わざるを得ない。

 同じように人を殺しても、ある犯人は有期刑になり、ある犯人は死刑判決を受ける。死刑判決を受けたとしても、ある死刑囚には死刑が執行され、ある死刑囚には死刑が執行されない。

 死刑廃止論者に向かって「あなたの家族が殺されても犯人に死刑を望まないのか?」と言う人たちは、現在の日本では「人を殺しても死刑にならない」という現状を知らないのだろう。「わたしは自分の家族が殺されたら犯人には死刑になってほしい。だから死刑制度は必要だと思う」と素朴に考えている人たちは、不幸にして自分の家族が殺人事件の被害者になり、犯人が逮捕され裁判が始まれば、自分の素朴な死刑肯定論が根底から否定されて驚くに違いない。

 日本の司法では「人を殺した者は原則死刑」になっていない。むしろ「人を殺しても死刑にならない」のが日本の司法だ。だから「家族が殺されたら云々」という死刑容認派の主張は、論の立て方からして間違っている。僕は現時点で死刑が廃止されても構わないと思っているのだが、その根拠は「家族が殺されてもどうせ犯人は死刑にならないから」なのだ。「死刑判決を受けてもおそらくその刑は執行されない」からなのだ。死刑肯定論者は、それに対して反論できるだろうか?

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

死刑は廃止してもよくないか?」への4件のコメント

  1. (冤罪の問題を除くと)これだと死刑肯定論者の現状認識が間違っていることを証明しただけで、死刑自体に反対する根拠にはなってないのではないでしょうか?

    例えば死刑肯定論者がこの記事を見ても「なるほど、今は殺人犯でもめったに死刑が執行されてないのか!じゃあ死刑囚に速やかに刑が執行されるようにデモを起こしたり、自分が殺人事件の裁判員になったときは断固死刑判決出したりしよう」と思うだけで、死刑廃止論者に裏返ることはないのではないかと思いました。

  2. 死刑肯定論者です。色々、反論したいところはあるのですが長くなるので。

    >日本の司法では「人を殺した者は原則死刑」になっていない。むしろ「人を殺しても死刑にならない」のが日本の司法だ。だから「家族が殺されたら云々」という死刑容認派の主張は、論の立て方からして間違っている。

    「人を殺した者は原則死刑」にならないのは当然で、法治国家である以上、そこに動機や情状酌量が加味されるからです。カッとなって殴ったら打ち所が悪くて殺してしまった者と、1年前から殺す準備をした者とでは、殺人の「質」が違います。

    >僕は現時点で死刑が廃止されても構わないと思っているのだが、その根拠は「家族が殺されてもどうせ犯人は死刑にならないから」なのだ。

    「死刑」が存在しなければ「死刑を望む」事も出来ません。
    望む事と、結果、死刑にならないのは分けて考えるべきです。

    この世に極罪(殺人)が存在する限り、極刑(死刑)は担保すべきだと考えます。
    それは執行される確率の問題ではありません。

    あくまでも「100万円盗んだ者は、100万円返すのが当然」という前提で、
    相手の返済能力を吟味して返済額を調整すべきです。
    最初から、「どうせ返せないんだから半分でいいよ」では「秩序の崩壊」です。

    この世から殺人が無くなれば、私もすぐに死刑廃止論者になります。

  3. 第二弾です。反論をお待ちしています。

    「人を殺したら死刑になるのが当然だ!」も
    「人を殺した者は原則死刑」も、誤解を招く表現だと思います。

    正しくは「人を殺せば死刑もありえる」だと思いますが。

    「死刑」は特にケース・バイ・ケースで慎重に判断する刑罰だと考えます。
    「殺人」と「死刑」を十把一絡げで括るのは余りにも短絡的だと思います。

    「人を殺しても死刑にならないのが日本の司法だ」も
    あまりに極論で首を傾げるばかりです。

    宮崎勤は執行されました。池田小学校の犯人も異例の早さで
    執行されました。近々では秋葉原事件の犯人も犠牲者の多さから
    遅くないうちに執行されると思います。

    決して執行率の割合が高くなくても、粛々と刑は執行されています。
    「家族が殺されてもどうせ犯人は死刑にならないから」の文言までいくと、
    さすがに印象操作の懸念も感じます。

    >100人以上いる死刑確定者の中から年平均4.5人に死刑を執行しているのでは、
    実際の死刑執行率は数パーセントということになるではないか。

    別にそれでも構わない思います。
    「死刑」は定期的にこなしていく刑ではありません。
    取り返しのつかない刑です。慎重に慎重を期して行うべきであり
    執行率の低さは、逆に望ましいと考えます。

  4. 更正の見込みが無いから死刑にするのであって、遺族感情は法的には何の価値もありませんよ

    僕が死刑存続派なのは、更生の見込みが無い人間が社会に出ないようにするためです

    あと、死刑になりにくいだけであって、一人だけ殺してもなることはあります

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