「これから読む聖書 創世記」読了

これから読む聖書 創世記

 図書館で借りた橋爪大三郎の「これから読む聖書 創世記」を読み終えた。「ふしぎなキリスト教」が売れたことですっかり日本における「キリスト教の権威」になってしまった著者が、こうした本を出すこと自体は別に不思議ではない。しかし相変わらず中途半端な本で、読んでいても面白くはなかったな……。

 これは不愉快だという意味ではない。(「ふしぎなキリスト教」はいろいろと不愉快でしたが、今回はそういうのとは違う。)ここで著者は完全に「信仰の外側」に立つわけではなく、かといって「信仰の内側」から語っているわけでもない。その結果、熱湯を水で割ったような、単に生ぬるい本になってしまっているように思うのだ。

 著者はこの本をまとめるにあたって、次のような原則を掲げている。

  • 聖書学の成果をなるべく織り込んで、聖書の本文を合理的に解釈すること。
  • 旧約聖書がもともとユダヤ教の聖典であることに、じゅうぶんに配慮すること。
  • 信仰をもつ読者にも、信仰をもたない読者にも、理解しやすく説明すること。
  • 聖書と併せて読むのが望ましいが、本書だけ読んでもストーリーを追えること。
  • 聖書が初めてのひとにも、聖書をよく知っているひとにも、プラスになること。

 その上で、著者が大きく依拠しているのは岩波訳の旧約聖書(旧約聖書翻訳委員会訳、創世記は月本昭男訳)と、R・E・フリードマンの「旧約聖書を推理する―本当は誰が書いたか」、それにマックス・ヴェーバーの「古代ユダヤ教」であるように思える。

 この本の中途半端さは、例えば原則の最初にある「合理的に解釈」という点の立脚点が曖昧なことにも現れている。著者は旧約聖書が複数の資料のつぎはぎであるという「聖書学の常識」を大前提としながら、もう一方では聖書の記事を最初から最後まで一貫した物語として解釈し、そこに込められている意味を探り出そうとする。有名なイサク奉献の物語については、イエスの贖罪死という新約聖書の領域にまで踏み込んで、そこにあるメッセージを紡ぎ出そうとするのだ。

 でもこれって、キリスト教徒の視点だよね? 聖書全体を首尾一貫した「神の言葉」として読むからこそ、様々な矛盾を乗り越えてそこにひとつのメッセージが浮かび上がってくる。でもそれは「聖書はばらばらな資料の集積である」という立場から見れば、まるでナンセンスなことなんじゃないだろうか。

 結局、聖書は何をどうしようと「信仰の書」でしかないのだ。だからいくら「信仰を持たない読者」を意識し、聖書学をもとにして「合理的に」と考えたとしても、そこに何らかの「信仰的な読み込み」が入り込んできてしまう。この本は橋爪大三郎というひとりのキリスト教徒(ルーテル教会の信徒らしい)が読んだ「わたしにとっての旧約聖書創世記」なのだと思う。

 ノアの箱船、イサクの奉献、ヨセフの夢占いについての長目の記述など、そのまま切り取って教会の牧師の説教にも流用できそうな内容ではないだろうか。そう、これは橋爪大三郎による聖書講解であり、御言葉の説き明かしであり、説教なのだ。

 信徒による説教本みたいなものの中にも、素晴らしいものはたくさんある。遠藤周作や三浦綾子の書いたキリスト教入門書は、どれも著者たちの説教に満ちているではないか。では橋爪大三郎がそうした先達たちの衣鉢を継げるかというと、これが弱いんだよな……。信徒の立場からの説教を織り交ぜた聖書入門書なら、三浦綾子の「旧約聖書入門」や「新約聖書入門」を読んだ方がいい。一方で純粋に学術的な視点からの旧約聖書入門書(?)であれば、この本で参考文献にもあげられている山我哲雄の「聖書時代史 旧約篇」の方がずっと優れていると思う。

 橋爪大三郎は自分がキリスト教徒であることをきちんとカミングアウトした上で、ひとりの信徒の視点からキリスト教や聖書の解説書を書くべきだと思う。おそらくその方が、聖書やそれを元にした一神教信仰の世界に深く切り込めると思うんだけど……。

 著者は同時期に若い読者向けの「はじめての聖書」という本も出している。これも現在図書館に予約中だ。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書

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