「そして、メディアは日本を戦争に導いた」を読む

そして、メディアは日本を戦争に導いた

 半藤一利と保阪正康の対談集。図書館でも借りられたけど、Kindle版で読んだ。

 あ〜、なんかKindleを使い始めると、図書館で借りてこられそうな本もKindle版を買ってしまうなぁ。まあ年末年始の休暇用というのもあるから、今はこれでもいいけどね。でも年明けからはなるべく、図書館で借りられる本は図書館で借りるようにしよう。そうやって浮いたお金で、図書館にない少し高価な本を買ったりできるしね。

 で、本の内容なのだが、新鮮さは特にない。僕は山本夏彦の読者だったので、取り上げられている内容は夏彦コラムで読んだことがあるようなものばかりだった。

 戦前の新聞は軍部の圧力で書きたいものが書けなくなったわけではない。そもそも新聞は戦争が大好きだった。戦争の記事を書けば新聞が売れるからだ。新聞は戦争が大好きだし、それを読む読者も戦争が大好きだった。大好きなことが書いてあるから、人々はこぞって新聞を買った。「この戦争の大義は我にあり」「日本軍は勇敢に戦って戦果を上げている」「支那軍など恐るるに足らず」「英米の軍隊も皇軍の前には形無しだ」みたいな威勢のいい記事を書けば、読者は争うように新聞を買ってくれた。

 戦争が終盤になるとさすがに日本軍の分が悪いことは、新聞記者たちにもわかってくる。だがそれに対して、批判的な記事を書く新聞はなかった。「勝った勝った!」「万歳万歳!」とやっているうちに、軍と政府が着々と日本の報道にさまざまな縛りをかけていたからだ。だが「勝った勝った!」の時代に軍や政府に協力していたメディア各社は、これにまったく抵抗できないまま、大本営発表を垂れ流す御用メディアに成り下がってしまった。

 この当時のメディアに対しては、山本夏彦が「彼らはなぜあの時、軍に協力してあることないこと書いたのか?」という批判を行っている。軍や政府はメディア各社に対して「あれを書くな、これを書くな」という制限を加えている。だからそれを書けないのは当然だし、仕方ない面もある。でも軍や政府はメディアに対して「あれを書け、これを書け」という指示まではしていない。だからメディア各社や言論人が戦争に反対しているのであれば、軍や政府の宣伝になるようなことを「書かない」という選択肢はあったのだ。だが実際は書いていた。渋々書いていたのではなく、喜んで書いていた。書き飛ばしていた。そしてさんざん戦争を煽った挙げ句、昭和20年8月15日を境にして、論調をコロリとひっくり返して新体制を称賛するようになった。

 資本主義社会ではありとあらゆるものが売り買いの対象になる。言論だって商売のネタだ。売れる論なら高い値が付くが、売れない論はどこにも発表できない。戦前の日本のメディアは戦争に賛成し、戦争を宣伝することが「売れる」と見るや、各種商品を取りそろえて売りまくった。その結果、日本の言論は戦争賛成一色になった。

 「そして、メディアは日本を戦争に導いた」は、そうした日本のメディアの姿を昭和史の専門家である著者たちが具体的な事例を挙げながら論じ合った本だ。出てくる話はほとんど既に知っていたものだが、それでも面白いし、「そうだったのか!」という意外な話も出てきたりする。

 例えば昭和20年8月15日の新聞は、正午の玉音放送の内容が事前に新聞各社に伝えられていた。そのため新聞各社はこの日の「朝刊」を午後に発行した。そこには玉音放送の内容全文と、これからは平和と民主主義の時代がやって来るという、前日までとはまるで正反対の論調で埋め尽くされていたという。

 戦前の日本のメディアは誰に強制されたわけでもないのに、戦争を煽る論陣を張って日本の行く末を誤らせた。では現在の日本で同じ心配はないのかというと、これがあるのだ。先日の参院選挙前には自民党がマスコミ各社に「公平な報道」をするように通達を出したそうだし、朝日新聞の慰安婦報道に関連して「マスコミは私見を交えず事実の報道に徹すべし」という意見もちらほら見られる。でも新聞社は報道機関であると同時に「言論機関」だよ。私見を交えない言論なんてものあり得るのか? 目の前の事実の中から何を拾い上げ、どのような切り口で、どの程度の量を報じ、それをどう論評するかが新聞社の腕の見せ所ではないか。

 新聞社は消費税の低減税率を適応してほしくて、政府に対して思い切ったことが言えなくなっているのかもな。商売優先で本来言わなければならいことが言えないなら、それは戦前の新聞メディアと同じだろうに。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書, 日記

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