「なぜ時代劇は滅びるのか」を読む

なぜ時代劇は滅びるのか

 タイトルは「なぜ時代劇は滅びるのか」だが、これはむしろ「なぜ時代劇は滅びたのか」と過去形にした方がいいのかもしれない。著者はこの本の中で、自分が愛して止まない時代劇の「終焉」がなぜ引き起こされてしまったのかを丁寧に解説している。その言葉にはしばしば怒りが込められていて、具体的な作品名、関係者の名前、俳優の名前などが遠慮なしに引き合いに出されてコテンパンにされている。こうしたことは物書き稼業としては今後の取材などにも差し支えがありそうだし……と思うのだが、著者にここまで踏み込んだことが書けるのは、著者が「時代劇は滅びた」と見切りを付けているからではないだろうか。彼はもう時代劇を見限っている。もうかつてのような面白くてワクワクするような時代劇映画が作られることはあるまいと諦めている。「諦めるのはまだ早い!」と言えないのが、ちょっと辛いところではあるのだが。

 時代劇の衰退理由などについては、著者の分析や解説が正しいと思う。映画産業が衰退して、時代劇は映画からテレビへと発表の場を移していく。連続ドラマとしての時代劇は制作予算と制作費の差額が制作会社の利益になるため、ビジネスとして考えれば粗製濫造した方が儲かることになる。パターン化、マンネリ化した時代劇が増えたのはそのせいだ。だがこうした紋切り型の勧善懲悪時代劇は若い観客をつかむことができず、視聴者が高齢化してスポンサーが離れていく。時代劇は単発スペシャルドラマだけになったが、こうなるともう出演者の中にもスタッフの中にも時代劇が作れる人がいなくなる。

 著者の「鬼平犯科帳」評は我が意を得たりという気がした。「鬼平犯科帳」は素晴らしい時代劇ドラマだが、「鬼平」に描かれた時代風俗描写やムードが「時代劇の正解」として蔓延してしまったことが、時代劇の可能性や表現の幅を狭めてしまっている。正確な時代考証。江戸風俗。江戸の情緒。あれはすべて池波正太郎とフジテレビのスタッフが作り上げた「虚構としての江戸」であって、それが「鬼平」の世界に相応しいからそれが選択されたに過ぎない。他の番組には他の表現があって当然なのだ。時代劇は過去に無数に作られているのだから、少し過去の作品を紐解くだけでも参考になりそうな作品は山ほどありそうなのだが、今は時代劇を作る現場にそんな勉強をしている人はほとんどいないから、「鬼平犯科帳」がウケているならその路線でということになってしまう。

 まあ面白い時代劇を見たければ昔の古い時代劇を見ればいいわけで、それはアメリカ映画における西部劇やミュージカルでも同じことなのだ。じつは西部劇というのは日本の時代劇とまったく同じような発達と衰退を遂げたジャンルで、京都の時代劇がロケーションと人材の豊富さを生かした安上がりな映画として発達したのと同じように、西部劇もハリウッドで一番安上がりに撮れる映画として発達した。そしてテレビが普及すると映画のスクリーンからテレビに発表の場を移し、やがてそれも衰退して消滅していくという流れも同じなのだ。西部劇は今でも単発作品としてたまに作られてヒットするが、それが西部劇の復権につながるわけではない。これもまた時代劇と同じだ。

 アメリカの西部劇に比べると、日本の時代劇はまだ長く続いた方ではないのかなぁ……と僕は思ったりもするんだけどね。

 著者の大河ドラマ批判で「利家とまつ」がコテンパンにやられているのは、読んでいて痛快ではあってもなんだか気の毒なような気もした。大河ドラマのホームドラマ化は橋田壽賀子脚本の「おんな太閤記」に源流があるので、「利家とまつ」がいきなり毛色の変わったことをし始めたわけでもないのだ。僕はNHK大河の「女性路線」については、「おんな太閤記」の成功体験が忘れられないからだと思っているのだけれど……。

 著者は今回の本で大きくは扱っていないのだが、僕は時代劇がダメになった理由は「殺陣」がダメになったからだと思っている。チャンバラのできる俳優がいなくなったし、チャンバラをきちんと演出できる監督もいなくなった。「鬼平犯科帳」がまがりなりにも時代劇ドラマとして成立しているのは、最後にきちんとチャンバラがあるからでしょう。ところが時代劇の作り手たちは鬼平のチャンバラに注目せずに、鬼平の中に出てくる江戸情緒みたいなものにばかり注目してそれをマネしようとする。チャンバラはそれができる人を連れてこないと成立しないけれど、江戸情緒は美術や撮影でなんとなくそれらしく作れるような気がするからね。

 チャンバラ活劇の追究という点で僕は『るろうに剣心』三部作を高く評価しているんだけど、著者がそれについてまったく無視しているのが少し気になる点ではある。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書, 日記

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