「ザナック/ハリウッド最後のタイクーン」を読む

Darryl_F._Zanuck-1950

 少し前にようやく読み始めた、レナード・モズレーの「ザナック/ハリウッド最後のタイクーン」をようやく読み終えた。ハードカバーで本文は二段組み、400ページ以上ある本だったので取りかかるのに苦労したのだが、読み始めてしまえば面白くて止まらない。

 田舎町出身の作家志望の若者が、1920年代初頭のハリウッドで脚本を売ることに成功し、そこからめきめきと頭角を現していく。マック・セネットのスタジオでギャグマンとして腕を振るい、ワーナーに犬を主役にした企画(名犬リン・ティンティンのシリーズ)を売り込んで大当たり。ワーナーで他のライターの何人分もの仕事をひとりで切り回し、あまりの量産ぶりに複数の筆名を使わねばならぬ羽目になる。この大車輪の活躍と娯楽映画のツボを踏まえた才能に目をつけたワーナーは、ザナックをプロデューサーに引き上げ、やがて撮影所の責任者に。しかしワーナーではそれから先の目がないと見て独立し、ジョゼフ・スケンクらと二十世紀映画社を作って共同経営者に。ところが配給網を持たないこの会社はユナイテッド・アーティスツに作品を買いたたかれるばかりで、これに業を煮やしたザナックとスケンクは老舗のフォックス社に身売り。とはいえこれは実質的には二十世紀社によるフォックスの買収であり、ザナックは1935年に新生「二十世紀フォックス社」のボスに収まる。

 ザナックの映画人生はハリウッドが映画の都として世界に名を轟かせていた1920年代初頭から始まるが、この頃はまだサイレント時代。ザナックはワーナーの製作部長として世界初のトーキー映画『ジャズ・シンガー』を製作するが、このくだりはこの本の中でも一番ワクワクする場面のひとつだった。やがてワーナーを退社したザナックは二十世紀フォックスを立ち上げ、数々の名作名画を作って行く。しかし映画が斜陽化して行く1950年代、ザナックは家族と離れて活動拠点をヨーロッパに移したが、その間にハリウッドでは映画産業が大作主義で疲弊していく。

 1960年代になってフォックスは大作『クレオパトラ』(1963)の製作を始めるが、相次ぐトラブルからこの映画は湯水のごとく金を浪費し、ザナックが製作していた『史上最大の作戦』はそのあおりを食って製作中止に追い込まれそうになる。これに危機感を持ったザナックは会社の経営に復帰し、息子のリチャードを製作責任者に据えて会社を建て直した。やがてリチャードはフォックスの社長になる。ところが息子に会社の全権を委ねてしまうと、今度はその息子が妬ましくなる。自分が会社の実権を握るため、ザナックは臨時役員会を招集して息子を会社から追放してしまった。だがその直後の株主総会で、彼は名誉会長の座に追いやられて会社の実権を失ってしまうのだ。

 この本の原題は「ZANUCK: The Rise and Fall of Hollywood’s Last Tycoon」。「タイクーン」というのは「大君」に由来する言葉で、ハリウッドで自分のスタジオを牛耳っていた大物プロデューサーたちのこと。フィッツジェラルドに「ラスト・タイクーン」という映画業界を舞台にした小説があるが、この原題の「ラスト・タイクーン」はそれを踏まえてのものだろう。撮影所を支配し、スタッフや俳優たちを手足のように動かして映画を量産したタイクーンと呼ばれた大物プロデューサーたちが次々にハリウッドを去り、現在の映画プロデューサーは1本いくらで映画作りを請け負う契約者になっている。ザナックはちょうどその時代の変わり目にいて、最後までタイクーンとして自分の映画を作ろうとした。そこが「最後のタイクーン」たるゆえんなのだろう。だがザナックほどの大物でも、時代の流れには逆らえない。

 この本はダリル・ザナックという男を通して、ハリウッドの変貌を描いている。個々の作品にまつわるエピソードも面白いのだが、ハリウッドの栄枯盛衰をザナックという人物に象徴させる視点が面白い。これはひとりの男の視点を通して描かれる、ハリウッド映画史なのだ。

 個人的には黒澤明が『トラ・トラ・トラ!』を解任されるくだりを興味深く読んでいたのだが、黒澤解任の背後には、ダリル・ザナックとリチャード・ザナックの確執があったのかもしれない。

 映画本の多くがそうであるように、この「ザナック」も現在は絶版になっている。僕が持っているのはどこかで中古で手に入れた本で、奥付を見ると昭和61年10月31日発行の初版になっている。昭和61年は1986年だから、ザナックが亡くなった7年後だ。映画ファンの中にはまだ、ダリル・F・ザナックの名前や、彼が作った数々の作品の記憶が生々しく生きていたことだろう。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書, 日記

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