『舟を編む』の現実

舟を編む

 日本電子出版協会(JEPA)のセミナーに参加した。今回のテーマは「辞書鼎談:紙の辞書はもういらない?」で、長年に渡って紙の辞書や電子辞書の編集に携わってきた以下3名がゲスト。

  • 増井元
    岩波書店で「広辞苑」や「岩波国語辞典」の編集にかかわる。2008年に退任し、2013年10月に自身の辞書づくりにかかわるエピソードをまとめた著書「辞書の仕事」(岩波新書)を刊行。
  • 飯間浩明
    「三省堂国語辞典」の編集委員。著書に「遊ぶ日本語 不思議な日本語」(岩波書店)、「辞書を編む」(光文社新書)、「辞書に載る言葉はどこから探してくるのか」(ディスカヴァー)など。
  • 永田健児
    多数の電子ブックやCD-ROMの企画制作に携わり、2001年に辞書事典のデジタル化を専業とする株式会社ディジタルアシストを起業。代表取締役。日本電子出版協会レファレンス委員会委員長。

 話の内容は映画『舟を編む』の世界で、登壇者たちが辞書の内容についての具体的な内容について論じ始めると、品詞がどうした、用例がどうした、版によって語釈がどう変遷するかなど、興味のない人にはマニアックすぎてわけがわからないかもしれない話が続くことになる。僕自身は『舟を編む』で何となく辞書編集の世界を知ったようなつもりになっているので、その世界からすっぽりと本物が抜けだしてきたみたいで面白かった。『舟を編む』はフィクション作品だが、主人公の馬締が今も辞書編集をしているなら、たぶん同じような問題にいろいろと取り組んでいるのだと思う。

 僕自身は一応プロの物書きだったりするわけで、辞書はやはり手もとになければお話にならない身の上だ。ただし紙の辞書はもう持っていない。使っているのはシャープやカシオの電子辞書で、収録されている国語辞典は岩波書店の広辞苑(第五版)と、大修館書店の明鏡国語辞典。Mac OS Xにも辞書が内蔵されているが、これは現在、三省堂のスーパー大辞林が利用されている。

 僕はこうした辞書類を、自分が使っている言葉が正しいかどうかの確認作業に使用している。道具としては便利この上ないのだが、こうした電子辞書には序文もなければ凡例もなく、編集者の一覧も付いていない。作っている人たちの顔が見えないのだ。辞書を利用する人でそんなことを気にする人はあまりいないと思うが、こうして辞書を作っている人たちの話を聞いたりすると、そうしたものが多少は見えた方がやはりいいんじゃないかなぁ……と思ったりする。

 鼎談は最後に「今後作ってみたい辞書」の話になったのだが、増井さんが「広辞苑の初版から最新版までの、語釈の変化が全部たどれる電子辞書がほしい」とか、「見出し語の語釈を載せるのではなく、具体的な用例だけを大量に掲載した電子辞書が作れないか」などと言っていたのは面白いと思った。広辞苑の語釈変化の移り変わりを見れば、それはそのまま日本語の移り変わりの記録になっているだろうし、用例ばかりを大量に集めた本は、その言葉が持っている内容の豊かさを示すものになるだろう。実際に出るかどうかは別として、あれば僕は手に取ってみたいと思う。まあ、マニアックな辞書になっちゃうけどね……。

 いずれにせよ、辞書にはまだいろいろと可能性があるなぁ……と思わせる鼎談だった。午後3時から5時半まで、2時間半があっと言う間だったなぁ。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

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