「戦士の休息」を読む

戦士の休息

 落合博満の「戦士の休息」を読んだ。昨年夏に出た時から気になっていた本だが(2013年8月28日 第1刷発行)、図書館に蔵書があったので予約しておいたのだ。

 岩波書店から出ているが、もともとはスタジオジブリ発行の月刊誌「熱風」に連載されていたものだという。単行本化するにあたって、1年分の連載全12章に新たに書き下ろしの13章を加え、さらに山田洋次監督との特別対談を付けている。巻末には本文中で言及された映画についての豊富な注があり、スタッフ、キャスト、簡単なあらすじなどが書かれているのも親切だ。(ここまでやるなら索引も付ければよかったのに。)

 有名人が雑誌に寄稿する映画評論みたいな記事は多いし、それらをまとめた本も多く出されているが、本書の特徴はこれが個別作品の批評に留まらず、著者なりの「映画論」になっていることだと思う。ここでは著者が考えるスターの条件、映画と時代の関係、映画と記憶の関係、娯楽映画の条件、CGと映画など、映画というメディアそのものについての論考が多々含まれているのだ。また映画に描かれた男らしさ、プロ野球選手であった自分が野球映画を観たらどうなるか、「俺流」や「落合流」と映画の関係、野球と映画の共通点、映画の新しさとは何かなど、自分の体験や経験にもとづいて映画について論じている部分もある。

 映画の本としては専門の批評家が書いたものではなく「タレント本」の部類になるとは思うが、ここで論じられている内容はそんじょそこらの映画ファンは足もとにも及ばず、プロの映画評論家でも「う〜む」と唸らされるようなないようだと思う。

 であればこそ巻末の山田監督との対談はもう少し盛り上がるかと期待したが、これは初対面で遠慮があったせいか、あまり突っ込んだ話にならなかったのが残念。それぞれが自分の言いたいことだけを言って、終わってしまったような気がする。これは著者に連載を依頼したスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが対談相手になった方が、互いに忌憚のない意見が言い合えたのではないだろうか。

 本文には取り上げた映画のストーリーが紹介され、監督名、俳優名、関連エピソードなどが山ほど紹介されている。おそらく著者はこの原稿を書くために、取り上げる映画についてはビデオやDVDを改めて観直し、資料も十分に調べて十分な準備をしているはずだ。でないとここまで細かくは書けない。プロのライターでも資料をろくに調べず記事を書き飛ばすことが多い中で、ここまで丁寧な仕事をしていることには頭が下がる。ここから著者の映画に対する思い入れの深さが伝わってくるようだ。

 だがこうした用意周到な準備が、著者の肉声をかき消すバリアになっている面もあるように思う。次に同じように映画についての連載や本を出すなら、むしろ書き言葉ではなく話し言葉の方が著者の生の言葉が伝わってくると思う。対談は面倒なので、インタビューをもとにした聞き書きスタイルがいいかもね。

 いずれにせよ、落合博満という人はかなりの映画の見巧者だ。映画評論家でもプロのライターでもない人が、とんでもない量の映画を観て、しかもしれを的確に批評しているという事実に、まがりなりにもプロを名乗る人間の端くれとしては襟を正したいと思う。世の中にはこういう「素人」が他にもゴロゴロいるのです。だからプロはそれ以上に勉強して、鑑賞眼を養わなきゃね。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書, 日記

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