「もう一度天気待ち」を読む

もう一度天気待ち

 図書館で借りていた野上照代の「もう一度天気待ち 監督・黒澤明とともに」を読んだ。同じ著者の本は先日「蜥蜴の尻っぽ とっておき映画の話」を読んでいるのだが、順序としてはやはりこの「天気待ち」を先に読んでおくべきだった。

 本書は2001年に発行され、2004年に文庫化された「天気待ち 監督・黒澤明とともに」の増補改訂版だ。旧版は既に絶版になっているが、それを草思社から版を改めて発行する際に大幅に加筆している。ただしこれは、世間で一般に言われているような「大幅加筆」とは桁違いの分量だ。全体は2部構成で、後半の第2部が「天気待ち」の旧版再録だが、前半の第1部はまるまる本書のための書き下ろしになっている。(「『赤ひげ』後のクロサワとミフネ」だけは「天気待ち」が英語版で発売された時の加筆部分。)第1部の分量は、第2部との間に指を突っ込んで上から覗き込むと、全体の5分の2ぐらいだと思う。半分までは届いていないが、3分の1よりはずっと多いのだ。

 これは黒澤映画のファンにとって必読書だと思う。これに匹敵するのは堀川弘通監督の「評伝黒澤明」と、橋本忍の「複眼の映像」ぐらいだろうか。どれも黒澤明のすぐ身近にいた人たちから見た巨匠監督の姿が、生き生きと描かれている本だ。

 本書は資料や取材に基づいて書かれている部分も多いのだが、それよりも面白いのは、やはり著者がスタッフとして現場に立ち会い、その目で目撃した出来事の数々だろう。黒澤監督が『デルス・ウザーラ』の撮影でとても苦労したという話は知っていたが、それが具体的にどれほどの苦労だったのかというのは、この本を読んで初めてわかった気がする。音楽家との確執で佐藤勝が『影武者』を降板したのは知っていたが、『乱』で武満徹も降板しかけていたという話には驚いた。『影武者』の勝新太郎降板騒ぎも、黒澤や勝新の死後に週刊誌などではあれこれいろいろなことが書かれていたが、現場でつぶさにすべてを見ていた著者の言うことが一番真相に近いのだろう。そういう意味では、映画史の証言としても貴重な本だ。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 読書, 日記

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