カセットテープの時代

メモリー First Time

 『メモリー First Time』の試写を観たら、劇中でカセットテープが結構重要な小道具として登場するので、それについての話をちょっと書いておきたい。この映画のヒロインは病気治療のため飲んでいる薬の副作用で記憶障害があり、それを補うために日々の出来事や思いをカセットテープに録音しているという設定。

 そんなわけで彼女は常にカセットレコーダーを持って歩いているのだが、使っている小型のカセットレコーダーにはソニーのロゴがあったからウォークマンなのだろう。ただし機種まではわからなかった。ソニーのHPを見てもよくわからない。まあ映画をもう一度じっくり観れば特定可能かもしれないけど、特にそれが必要な映画でもないのでそれはまた別の機会に……。話はカセットレコーダーではなく、カセットテープのことだ。

 カセットレコーダーは既に我が家には存在しないのだが、映画の中にカセットテープが出てくると、そのプラスチックの手触りや重み、テープのたるみを取るためハブの穴に指や鉛筆を突っ込んでくるくる回すときの感触などをすぐに思い出す。ラジカセの再生ボタンを押すときの重みや、テープが最後まで再生されるとガシャン!という大きな音を立ててボタンが元に戻る様子、オートリバースのカセットプレイヤーで、テープが最後まで再生されてから一瞬停止し、それからテープが反対方向に動き出したことなども懐かしい。テープは巻きはじめと巻き終わりとでハブの回転数が違ってくるのも面白かった。

 ラジオのエアチェックというのもやった。ラジカセにカセットをセットしからポーズボタンを押してから録音ボタンを押し、ポーズボタンに指をかけてラジオで目的の曲がかかるのをずっと待つ。昔はアーティストのニューアルバムが発売されると、「今日はアルバムのA面を全部かけます」「来週はB面を全部かけます」みたいなラジオ番組が結構あったな。興味がない人にはぜんぜん面白くもおかしくもない放送だったけど、お金のない若者たちには有り難かったはず。

 レンタルレコードが普及すると、レンタル店からLPレコードを借りてきては次々にカセットに録音した。自分で買ったLPも、聴くときの簡便さを考えて最初に全部カセットに録音してしまったな。僕はものぐさなのであまり編集などはやらなかったけれど、テーマ別に楽曲を編集したりする人もかなりいた。「ドライブ用のカセット」とかは定番なんでしょうね。僕は車の運転をしなかったので縁のない世界だったけど。

 LPなどレコード盤の話はまたそれだけで長くなるけど(例えばレコードクリーナーやLPの中袋の話だけでかなり語れるでしょ?)、レコードやCDなどのアナログ媒体には、デジタルになってから消えてしまった「手触り」や「匂い」があった。カセットテープを振ると、軽くカチャカチャ音がしたとか、カセットケースを開くときはプラスチック同士がきしむかすかな手応えがあったとか、カセットケースのレーベル面にボールペンでタイトルを書き込むときの固い感触とか……。ああいったものは、デジタルになると全部なくなった。便利にはなったんだろうけど、便利さと引き替えに、かなりいろいろなものがなくなってしまったんだと思う。

 『メモリー First Time』には、嗅覚や味覚が人間の記憶の奥深くに刻まれて、それは一生忘れられないものになる……という台詞がある。アナログ時代の音楽はただ耳で聴くだけではなく、手触りや匂いを通して人間の五感に訴えかけるものだった。『メモリー First Time』がなぜわざわざ不便なカセットテープを小道具にしているかも、そのあたりと関係がありそうだ。

投稿者: 服部弘一郎 カテゴリー: 日記

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