「白竜 LEGEND 原子力マフィア編」を読む

白竜LEGEND原子力マフィア編(上)

 漫画ゴラクで連載されていた「白竜 LEGEND 原子力マフィア編」が上下巻2冊で単行本化された。「白竜 LEGEND」は時事的な話題を扱いながら、その真相の闇にやくざが切り込んでいくという展開になることが多いのだが、この原子力マフィア編もそうしたシリーズのひとつだった。連載開始は2011年2月4日。3月11日に大震災と原発事故が発生し、3月18日発売号で連載休止。その後、雑誌では別のシリーズが始まって、「原子力マフィア編」はそのままお蔵入りする幻のエピソードになるのではないかと思われた。

 ところがこの連載は昨年8月23日に再開。(連載再開前に「白竜LEGEND 原子力マフィア スペシャル」という連載中断前の総集編が出ている。)そのままラストまで突っ走り、最後は東日本大震災を思わせる大地震と津波のシーンで物語が閉じられる。今回それがようやく単行本化されたわけだ。完結した時点で連載回数は21回。そのうち連載中断前の掲載分が7回だったので、連載再開後のボリュームがそれ以前の倍あることになる。

 「白竜」シリーズは「白竜」と現在連載中の「白竜LEGEND」を合わせて単行本でのべ50巻を超える人気作なのだが、今回の「原子力マフィア編」は通常の「第○巻」とは別立ての独立した単行本になっている。連載の中断と再開で掲載順が前後してしまったこともあるだろうが、それよりも出版者側は、これをこれまで「白竜」シリーズを購入したことがない人にも買いやすく読みやすい形で世に出したかったのかもしれない。

 物語は原発労働者の放射線被曝をろくに管理していない原発内部のずさんな運営や、それを地域ぐるみで隠蔽してしまう「原発村」の存在を入口にして、原発建設にまつわる国と電力会社と御用学者による「活断層隠し」が大きなテーマになっている。活断層の問題は福島事故以来しばしばニュースにもなっていたが、実際にそこに何があるのかは本当のところよくわからない。「白竜LEGEND」はやくざマンガなので、電力会社の隠蔽体質はより悪辣に描かれ、そこに食い込んでいく主人公たちも違法な暴力を使って強引にことを進めて行く。「白竜」シリーズでは企業や行政など巨大組織の犯罪を扱ったエピソードがあるが、事件の核心にずかずかと踏み込んでいく白竜たちの行動力こそがこの作品の魅力になっているのだ。

 全体としては面白い作品だが、物語の入口になる原発労働者の被曝問題が途中で置き去りにされてしまうのが少し気になる。原発建設や保守にまつわる現場のずさんな体勢や労働環境の劣悪さは、この作品に登場する原発単独の問題ではなく、日本中にある原発全体の問題だろう。それを放置したまま話が活断層に収斂していくのは、問題の局地化であり、場合によっては矮小化ではないだろうか。それは「活断層の疑いがなくなればOKだよね」という話になってしまうからだ。(そして今現在、日本はその方向で原発再稼働に向かいつつある。)

 活断層問題を指摘して安全審査委員会を辞任した仲里教授に圧力をかけるため、電力会社が殺し屋に命じて教授の妻を射殺するという展開も疑問だ。あまりにも教授を追い詰めたことが、かえって「窮鼠猫をかむ」という状態を生み出してしまった。

 だがそれよりも大きなこの作品の欠点は、この作品が描こうとした「原発の闇」が、目の前の現実にまったく追いついていないことだ。福島事故の後に行われた原発の立地調査などを見ると、おそらく委員会の一部委員が「活断層の疑いが濃厚だ」と主張しても、最終的には多数意見に押しつぶされてしまうだけなのではないだろうか。また福島事故が起きた後でさえ、日本には「原発は安全だ」と言う人たちが山ほどいて、日本は今少しずつ「原発再稼働」に向けて歩みを進めている。「原発の闇」はあまりにも深く、広く、暗い。

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